裁判員制度実施10年を迎えて
2019年5月、無作為で選ばれた市民代表が刑事裁判に参加する裁判員制度が日本に導入されて10年を迎えました。
裁判員制度は、20歳以上の有権者から無作為抽出で選出された裁判員6名が職業裁判官3名と併せて9名で合議体を構成し、最高刑が死刑、無期懲役を含む重罪事件、故意に被害者を死亡させた事件の審理を行い、判決内容を決定する制度です。
最高裁によれば、この10年間で、裁判員が参加した裁判の数は、1万2000件を超え、裁判員は補充裁判員を含めれば約9万人を超えました。このうち97パーセントが有罪判決、死刑は37件、無期懲役233件、無罪は104件。審理の平均日数は、09年の3.7日以後長期化が進んでおり、2018年は10.8日となっています。
長期化する審理の負担が影響するためか、裁判員の辞退が増え、2018年には裁判員の呼出の通知を受けた市民のうち67パーセントが辞退しています。裁判経験者に対して行われた調査では、95パーセントが良い経験だったと司法への国民参加を肯定的に捉え、67パーセントが審理内容がわかりやすかったと回答しています。
裁判員制度は、市民感覚を刑事裁判に反映させることが目的でした。裁判員制度導入後、判決の量刑にも変化が生じています。例えば、殺人罪の量刑が重くなり、また性犯罪、とくに強姦致死傷等の性犯罪に絡んで被害者の命が奪われた犯罪類型では、量刑が重い方向にシフトしています。狭い世界でキャリアを積み上げた職業裁判官の判断とともに、年齢、社会的地位、職業、考え方、生活体験を異にする多様な市民の感覚を刑事裁判に反映させることは、司法が主権者である市民に支持されるという点でも、民主主義の定着という点でも、有益です。今後は、裁判員になる市民の負担に配慮した運用の改善、広く国民の中に理解を広めていくための広報活動の強化が必要ではないかと思います。
弁護士 長谷川一裕(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)