事務所だより

~15周年特集 東北大震災の風評被害による損害賠償事件

2016年07月05日

2015年秋、気仙沼、女川、南三陸町等の東日本大震災の津波の被災地を訪ねる機会がありました。大勢の子どもが犠牲になった大川小学校の遺構を前に言葉を失いました。

津波と共に大きな被害をもたらしたのが、福島第2原子力発電所の事故でした。その一つが風評被害です。「福島産の農産物、魚は危ない」という風評が一挙に広がり、多くの農家、漁師がダメージを受けました。私がご依頼を受けたのは、会津地方で養豚業を営んでいる甲さん(仮名)。名古屋の知人の紹介でした。

震災当時、甲さんは、岐阜県の農場と提携しながら、伝染病に強い豚への品種の変更を計画し、新しい設備投資を行う準備を設備業者等と進めていました。補助金を申請する準備も進めていました。しかし、震災で全ての計画が駄目になったのです。

まずは東京電力に交渉をもちかけましたが、「会津まで風評被害が及ぶとは考えにくい」

「損害の証明が不十分」等ということで十分な対応が示されなかったため、東京の「原子力損害賠償紛争解決センター」に和解仲介手続を申し立てました。最大の争点は、損害額です。損害額は、被害者が証明しなければなりません。「原発事故がなく、設備改良、豚の品種変更が予定通り行われた場合に得べかりし利益」が幾らであった蓋然性があるかをを立証するため、養豚業者の協力を得てシュミレーションを作成して提出し、仲介を担当した弁護士の斡旋によって東京電力が相当額の賠償を行うことで和解が成立しました。

翌年5月初旬に甲さんの養豚場に調査に出向いたのですが、雪解けしたばかりの5月の会津地方は、山の木々が薄緑の新緑になり、ふきのとう、桜が同時に咲いていました。名古屋とは全く違う早春の風景に出会うことが出来てのは、弁護士の役得でした。

 

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弁護士 長谷川一裕

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