事務所だより

「喜怒哀楽を力にー自称青年弁護士の訟廷日誌」を聞く3 豆電球112

2010年05月13日

「自己責任論」のこと、若手弁護士に送る言葉

【第3のキーワード】平和問題への取り組みと「自己責任」論

<地域の人々と海外へ出かける>
95年に沖縄の少女暴行事件が起きた。海兵隊の3名の兵士による集団レイプ事件だ。沖縄だけでなく、日本中が怒った。諏訪で大型バス一杯の45人を集めて、沖縄に出かけた。ハンセン病の施設にも出かけた。
その後、ベトナム、韓国、カンボジア等に、地域の人たちと一緒に時々、海外に出かけるようになった。ベトナムでは、今でも枯れ葉剤の影響で奇形児として生まれてくる赤ちゃんがいる。そんな施設も訪ねた。
自分が発行した冊子、「沖縄からイアンフを考える」は、沖縄の少女暴行事件の頃に、元慰安婦の方から言われた言葉が自分の胸の応えたことが動機になった。その女性は、「日本中の人たちが沖縄の事件について怒っている。でも、私たちは、毎日、同じような目にあった。毎日、何人もの男性の相手をしたのだ。そんな私たちのことをどう思っているのだろうか」という趣旨であったと思う。高校生を前に講演した時の記録と感想文を基に出版した。自分一人では何もできないと思うのではなく、自分が感じたことを世にアピールすることは、その気になればできる。今はインターネットがある。その時の出版は自費出版で、50万円くらい負担して出版社に御願いした。

<自己責任論の嵐の中で>
9・11テロは、自分の娘の誕生日に起きた。誕生日で早く帰宅していたが、テレビでビルが崩壊する場面を見た。その後、高遠直子さん、郡山さんら三名がイラクで拘束される事件が起きた。三名のうち一名は、知り合いであったこともあって、何でもできることはやろうと思い、救出を求めるメール署名に取り組んだりした。
ところが、その事件では、高遠さんたちに対するすさまじいバッシングが巻き起こった。喫茶店でも「自分勝手よね」「迷惑よね」という声が聞こえた。総理大臣まで、自己責任に言及したが、自己責任論というものが広がった。
高遠さんは、帰国した時、「心配していただいたことには感謝するが、間違ったことはしていないので謝罪はしない」という態度を取った。そうしたところ、自宅に「おまえたち死ね!!」というメールが山のように届けられた。それは、大変な量だったようだ。
高遠さんらは、イラクの人たちを救いたいという気持ちで行ったことは間違いないことだ。アメリカのパウエル元国防長官も「リスクを恐れず前に進む人がいるから、社会は進歩する」と言ったという。世界のマスメディアも三人を賞賛する記事を書いた。ところが、日本では自己責任論のバッシングだった。
こういう社会であってはいけない、と思った。そこで、まず、自分の知り合いなどに勝手にメールでメッセージを送信して取り組みをはじめた。本当は、知っているメールアドレスを転用することはいけないことかもしれないし、叱られると思ったが、歓迎された。「非戦つうしん」というメルマガは、それが出発点だ。今では481号となった。なかなか忙しくて大変な時もある。しかし、おかげで自分の情報の整理にも役立つ。
メルマガによる情報発信の良さは、多くの人と双方向の交流が出来るということだ。そして、自分が独善に陥らないためにも役立っている。おかしなことを書くと、すぐ批判される。自己点検のツールになる。
この問題は一つの例だが、弁護士同士のつながりなど、本当に小さなものだ。大切なことは、「住民、国民とともに社会を変える」ということだ。自分のつながりのうちで、弁護士とのつながりは、ほんの一部に過ぎない。弁護士同士で話をするとき、「先生」と呼び合うのはおかしい。良くないと思う。
自分も弁護士である前に、一人の国民であり、地球人である。一人の人間として、社会を変えるために何が出来るか、ということを考えたい。私は、名古屋のイラク訴訟に参加したが、市民の一人として参加した。

競争原理が支配する社会になり、子供も大人も孤立している。孤立が広がっている。そんな中で、人と人のつながりを再生させる必要がある。それ自体が、たたかいとるべき目標になっているということだ。先ほども述べたが、自己肯定感が持てて始めて他人への思いやりが生まれるし、他国の人たちへの思いが生まれる。成績評価主義が広がり、過労死が生まれるような中でフラストレーションが蓄積される。そんな社会だから、朝鮮半島で何かあれば武力でつぶしてしまえ、という発想で出てくるのではないか。自己責任論に囚われているから、何か格好のターゲットが出来ると、そこにバッシングが起きる。
人と人とのつながりを作り出すことは、平和を守る基盤になると思う。私は、「つながりを作り出す」という取り組みが全国に広がって欲しいと思う。そんな思いから「諏訪文化村」という取り組みを始めた。

【第4のキーワード】

弁護士として、一番大切なことは何か。それは、相談者、依頼者を「同時代を喜怒哀楽を持ってともに生きる存在として共感をもって受け止める力」だと思う。
弁護士が殿様になっていないか。司法改革が始まって相当期間がたつが、未だ、「弁護士が殿様」という実態が残されてはいないか。
宇都宮弁護士が大差で当選した背景には、若手の中に、「仕事が減る」という経済不安があることは確かだろう。それは理解できる。しかし、考えてもみてほしい。正義の味方として、困った人たち、弱い立場の人たちを助けることが仕事である等と言う職業が、外にあるだろうか。弁護士は、実に人間冥利に尽きる仕事ではないか。だから、私は言っている。500万円でもいいではないか、と。そんな楽しい人間冥利に尽きる仕事ができるなら、収入は少なくても構わないじゃないか、と。そんな差引勘定をする発想もあっても良いのではないか。

最近、弁護士登録30年の同期会があり、動機の弁護士から「おまえ、まだ『人権』、『正義』なんて言う青臭いことをやっているのか」と言われた。30年立っても、人間の喜怒哀楽をバネに、夢を忘れず、青臭いことをやり続けている弁護士もいるんだということを知って貰えれば、私の講演にも意味があったということだ。

(おわり)

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