経営の素人が中小企業の社長さんたちを前に経営論を語る3 豆電球No.89
経営の素人が中小企業の社長を前に経営論を語る3
?事件処理のあり方について
一つ一つの事件処理を大切に処理する。どんな相談、依頼事件であっても、分け隔てなく、丁寧に相談をお受けし事件処理する
依頼者との連絡を緊密に取り、説明責任を果たし、依頼者の意思、判断を尊重しながら、
事件を処理する
請負主義にたたない。事件を適切に解決し、依頼者の権利と利益を擁護するためには、ともにたたかう姿勢がなくてはならない。「私にまかせておけば大丈夫」とい請け負ってしまえば楽のようだが、それでは事件を依頼者にとって有利な解決に導くことはできない。一緒に、主張立証方針を考え、証拠を探し、解決の方向性を相談するということが重要である。
?受け身の姿勢にたたず、法律を暮らしと経営を守る武器としてもらうために、法律や司法についての積極的な情報発信を行う。弁護士や司法を身近で敷居の低いものとするために、市民の暮らしに役立つものとするために努力する。
地域の方々と「暮らしと法律を結ぶネットワーク」(ホウネット)を結成して様々な活動を行っているのも、ホームページで様々な情報発信を行っているのも、このためである。
?社会貢献活動と業務を一体となって追求する。
一つ一つの相談、依頼を誠実に処理するという業務は、弁護士事務所として当然である。それができなければ話にならない。それで、お金をいただくプロフェッショナルだから当然である。しかし、わが国の弁護士法は、弁護士の仕事は、「国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現である、と定めている。六法全書には、六以上の無数の法律が載っているが、弁護士法のこの規定は名品中の名品である、と思っている。金儲けを最優先にするアメリカの弁護士モデルとはくっきりとした対照をなす(アメリカにも、貧困者のために献身的にたたかっている弁護士、弁護士集団がいることを忘れてはならない)。
だから、弁護士は、大げさに言えば、「世直し」が仕事なのである。裁判や紛争処理は、起きてしまった事の一種の後始末である。それは、弁護士の一番大切な仕事であり、それによって国民の人権の擁護をめざすことが基本的な仕事である。しかし、重要なことは、きちんとした紛争処理とともに、国民の権利の抑圧、人権侵害をもたらす社会の矛盾、貧困をなくしていくために取り組んでこそ、「私の仕事は基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命としています」と胸を張れるのではないか。たとえ、それがどんなに小さな力しかなくても、それは言い訳にはならない。一人一人の弁護士は、微力ではあっても、無力ではないからである。
こうした観点から、名古屋北法律事務所では、政策形成訴訟と呼ばれるような様々な集団訴訟、今では原爆訴訟、肝炎訴訟、過労死裁判、派遣切り裁判、入札談合住民訴訟等に積極的に参加するとともに、原水爆禁止運動や地域での様々なボランティア活動にも積極的に参加している。
?全ての弁護士、事務員が参画する事務所運営。
事務所では、できる限り事務職員の役割を尊重し、事務所会議で重要な事柄を論議して決めている。もちろん経理は全面的に公開している。
弁護士の間に親弁、イソ弁という区別はない。年長者だから私が所長ということになっているが、重要事項は運営委員会という全ての弁護士が構成員となった会議で決めている。
この話をすると、たいていの弁護士や中小企業の社長は驚く。しかし、財政は、会社経営の物質的基礎であり、そこに会社の全てが反映される。経理を公開してこそ、事務所の現状を共通認識にすることができる。
ピンチの時にも、本当に事務所一丸となって取り組むことができる。
思うに、中小企業の活力は、所詮は人しかいない。特に法律事務所という企業の唯一といって良い戦力は、人材である。その人材のやる気、活力をどのように引き出していくのかということが、経営の要諦であり、そのためにはそれにふさわしい事務所の運営、体制が必要なのである。そして、北法律事務所では、事務局を単なるお茶くみ、電話当番ではなく、依頼者のための仕事を一緒に進めるパートナーとして位置づけている。
中小企業家同友会の例会では、おおむねこのような話をさせていただいたのだが、弁護士事務所という特殊な業界の話なので、社長さんたちの参考になったか否かは定かではない。
質問コーナーでは、その多くが労働問題に関するものであった。中には、社長の役員報酬をゼロにして経営を守り、雇用を守っているという話もあった。
名古屋北法律事務所では、労働事件が多いのだが、それは三菱派遣切り訴訟のように労働者側ばかりではなく、中小企業の経営者からの労働問題の法律相談も積極的に受付けている。労働事件を取り扱う弁護士の中には、労働側でやる以上、使用者側の相談は受けるべきではないと考え、顧問先企業であっても労働問題の相談や依頼を受けないところがあると聞いている。
しかし、中小企業のオヤジさんたちの多くは労働法のことを詳しく知らない。中小企業の経営者こそ、法律家が、労働問題について一番、情報提供を行い、カウンセリングを行わなければならない階層である。もちろん、組合つぶしを目論むような使用者側の相談はお断りだが、大半の社長さんたちは、真面目に社員の事を考えながらも、労使関係で様々な法律問題に直面して悩んでいるのである。
その後、居酒屋に場所を移して二次会を行い、散会となった。
(この連載記事の最後の記事が遅れてしまつたことをお詫びします)