コナン君の裁判員制度問答No.2 豆電球No.60
コナン君の裁判員制度問答No.2
コナン
梅雨になつて雨ばっか。洗濯もんが干せずに困ってまうね。
いろいろ、これから質問させて貰うけど、まず結論から聞かしてまえるかね。
長谷川さんは裁判員制度導入に賛成なのか、反対なのか、どっちかはっきりしてちょ。まあー、だいたい想像はつくけど。それから、名古屋北法律事務所はどう考えているんだい。
長谷川
梅雨は、鬱陶しいという修飾語がいつもつくけど、僕の自宅の前の田圃に水が張られ、夜は蛙の鳴き声がして、なかなか風情があると思うけど。だいたい梅雨がなかったら名古屋の夏は耐えられません。
裁判員制度の実施、私は、諸手を挙げて賛成だ。これまでの刑事裁判の腐っていたところを改革する突破口になる。閉ざされていた司法の中に風を入れる、官僚司法から市民に理解され支持される司法に改革する第一歩になりうる極めて重要な制度改革だ。
名古屋北法律事務所内でもいろいろな意見がある。「窮屈な男」という異名を持つ男は、死刑に反対し名張独ぶどう酒事件の運動にも積極的に参加している が、制度の内容に異存があるようだ。刑事裁判では公判前に検察、弁護士の主張を整理する手続(公判前整理手続)が導入されたんだが、それが特に問題と感じ ているようだ。
だから、豆電球は、全て長谷川個人の意見として聞いて欲しい。
コナン
諸手を挙げて賛成!というのは、いつか、どこかで聞いたせりふだな。裁判員制度はそんなに良い制度なのか。ちょっと、おみゃーさん、言い過ぎではないの。
長谷川
僕自身、制度設計の具体的な内容にはいろいろ問題があると思っている。僕は、審議会が設置された頃、「市民のための司法改革を求める愛知の会」という運動に事務局長として参加していたけど、会としても審議会に意見を出した。
しかし、日本の刑事裁判・刑事司法は、有名な刑法・刑事訴訟法学者の平野龍一が「日本の刑事裁判は絶望的だ。陪審制の導入も考える必要がある」と述べた ように、深刻な問題があった。刑事司法の改革が強く求められている。まずは導入し、生じた問題点は3年後の見直しの中で再び論議すべきだと思う。
コナン
なるほど、長谷川さんも手放しで制度の内容に賛成しているわけじゃないんだ。
でも、弁護士の中では反対意見は相当強いと聞いている。「雑な裁判になって誤判が増える」という弁護士の意見を聞いた。「問題はあるかもしれないが実施を」という長谷川さんの意見は、弁護士の中では少数意見なんじゃないのか。
長谷川
裁判員制度になったらパラ色だなんて思う人はいない。誤判がなくなるなんてこともない。
コナン
へえー、誤判は、なくならないのか。
長谷川
なくならない。裁判は人間が裁く制度である以上、誤判は避けられない。絶対、誤判を出さない裁判、それができるのは閻魔大王か神だろう。
むしろ、誤判は避けられないんだ、と言うことをしっかり心に刻むこと、認識することが大事なんだ。刑事裁判の鉄則である疑わしきは被告人の利益に、という考え方の重要性もそこにある。
裁判員制度は誤判をなくすという点でもいろいろ配慮されていることは事実だ。供述調書という警察官、検察官の「作文」が主役になっていた刑事裁判から、 公判にあらわれた証拠や証言によって有罪か無罪を判断する直接主義・口頭主義の再生、これまでぶろの裁判官だけの密室で行われていた評議が限定的であるに せよ市民代表のチェックを受けること等は、改善点がある。これについて、後で議論しよう。
さて、弁護士全体の意見分布はどうかという質問だったけど、反対意見の方が多いとは言えないと思うけどな。そもそも僕にとっては、多数意見か少数意見かに余り関心はない。今日の少数意見は明日の多数意見っていうじゃないか(笑)。
ただ、愛知県弁護士会は、どちらかというと反対意見や消極意見が強いかもしれないな。裁判員制度が導入されたら国選弁護人をやりたくないという人もいるようだ。
コナン
新潟弁護士会では裁判員制度の導入の延期を求める決議がされた。
長谷川
詳しいね。多くの弁護士たち、特に若手が、裁判員制度のもとで如何に被告人の人権保障のために活動するか、いかに検察とたたかうかを研究、準備している。こうした動きに背中から冷や水をかけるような時差ぼけの決議、と酷評しておこう。
なお、新潟と同じような決議案が出されたが否決された弁護士会が少なくない。埼玉弁護士会では、その円滑な実施を求める決議が採択されている。日本の弁護士は、人権擁護の伝統がある。大丈夫だ。
コナン
そうかなー。聞いたところでは、長谷川さんが言う人権派弁護士の中でも反対意見が多いというじゃないか。
労働事件や弾圧事件等の法廷闘争の中で鍛えられた弁護士たちこそ、裁判員制度の中で力を発揮できるんじゃないのかい。そのメンバーでも消極意見が強いって言うのは心配なんだが。
長谷川
その通りだ。裁判員制度のもとでは、刑事裁判は、集中的な取り組み、組織的な取り組みが決定的に重要だ。法廷での証人尋問、説得力ある弁論等は、大きな労働裁判や公害裁判等で活躍してきた弁護士たちこそ、その力量を発揮できる筈だ。
人権派だからといって、経験主義に陥ったりすることはある。大きな変革だから制度の改変に違和感を覚えることは自然だよ。
僕は、制度について、いろんな意見があって当然だと思うし、大いに議論ずれば良いと思う。
ただ、裁判員制度になったら国選弁護人はやらないというのは、いけない。実務家としての責任放棄、職場放棄だ。