事務所だより

名張毒ぶどう酒事件 不当決定に思う

2012年05月29日

2012年5月25日、待ち望んでていた名張事件の決定の日に下されたのは、不当決定でした。

私が名張事件を初めて知ったのは、この事務所に入ってから。長尾事務局長が守る会の事務局次長をしており、「そんな事件もあるんだな」という程度の認識でした。えん罪事件があるなんてことすら、考えた事もなかった私は、「やったかやっていないかなんて、本人じゃなきゃ分からない」と思い、長尾さんから署名を頼まれても、「私は分からない」と言って断っていたほどでした。

きっかけは初めて参加した名張事件の現地調査。毎年、事件のあった葛尾の部落に出かけていき、弁護団から詳しい説明をしてもらうのですが、その道中、マイクロバスの中で流していた、東海テレビ作成の「証言」という番組のビデオを見た時でした。

事件関係者の証言が、ある日を堺に、次々と変えられてしまう。そしてその変更された「証言」によって、犯行機会は奥西さんしかいない、という事になってしまったのです。この証言の変遷を、第1審では「検察官の並々ならぬ努力の所産」として無罪判決がなされたのですが、第2審において逆転死刑判決、今なお奥西さんは独房から、「やっていない」と叫び続けているのです。

あの時の衝撃は忘れられません。当時のずさんな捜査や鑑定、そして作られた「証言」で奥西さんは有罪となり、その後化学や技術の発達で当時の鑑定が証拠能力が全くない事がはっきりしているのに、「自白をした」ただその1点で奥西さんは拘束され続けているのです。

刑事事件の鉄則が「疑わしきは被告人の利益に」というのはあまりに有名な話ですが、これは再審請求にも当てはまることです。

名張事件は、過去2回も事実上の無罪判決を受けています。1回は1審の無罪判決、そしてもう1回は7年前の再審開始決定・・・。

2人の裁判官による無罪の判断、そして10万7000筆の「奥西さんは無罪だ」とする署名、連日テレビや紙面を飾る「開かない再審の扉」の報道・・・。

これだけ多くの人が奥西さんの無実を信じているのであれば、客観的にみて、奥西さんを犯人とするには疑わしいと言えるのではないでしょうか。

今争点となっている薬物の問題や、証言の変遷以外にも、検察側証拠の偽造された歯形鑑定や王冠の問題、竹筒に入れた毒物を新聞紙で栓をしただけでポケットに入れていたとする自白など、事実とするにはあまりに疑わしい事ばかりです。

それを全部精査した上で、「犯人は奥西さんに間違いない」と判断したのだとしたら、裁判官はいったい何をみていて、どんな思考回路をしているのでしょうか。いつ誰が殺人犯に仕立てられてもおかしくない、そしてそのまま死刑判決がなされてしまう可能性のある世の中なんだと思うと、この事件は決して人ごとではありません。

「犯人は奥西さんに間違いない」と思っている裁判官に、「奥西さんが犯人である」事を納得できるように説明してほしい・・・。いま、私は切実に思っています。それが出来ないのであれば、本当に裁かれなければいけないのは、不当決定を下してきた裁判官達なのではないでしょうか。

人の命の問題に、事実から目をそらしてしまう裁判官を、私たち市民が裁いていかなければいけないのだと、思い知らされた不当決定でした。

事務局  近藤千佐子(愛知奥西勝さんを守る会所属)

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