適切な労災認定で適切な補償を受け取る
使用者は労働者を雇う場合、必ず労災保険に加入しなければなりません。労働者の負傷・疾病が業務上の事由による場合などには、労災保険から保険給付を受けることができます。もし、仕事中、または通勤中にけがや病気になった場合には、まず、労災給付を受けられるかどうかご相談ください。
また、異常な長時間残業や休日なしの勤務は労働者に過重な精神的・肉体的負荷を与え、脳心臓疾患が発症する危険性が高くなり、最悪の場合、労働者を死に至らしめます(過労死)。業務による心理的負荷が原因で労働者にうつ病が発症して自殺をしてしまう場合もあります(過労自殺)。
使用者が労働者の安全や健康に対して配慮をしなかったことが原因で労働災害を発生させた場合には、使用者に対して損害賠償を請求することもできます。
労災とは
労働災害(労災)とは、労働者が労務に従事したことによって被った負傷、疾病、死亡などです。
代表的なものとしては、機械に巻き込まれて怪我をしたり、建設現場での高所作業中に転落するなどがありますが、職場における過重負荷による脳・心臓疾患や、業務による心理的負荷の増大による精神障害の場合もあります。
労災申請のメリット
労災と認められれば、以下のような補償を受けることができます。
療養補償給付 | 病院代、薬代等が国から支払われます。 |
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休業補償給付 | 給与の80%が休業期間中支給されます。 |
障害補償給付 | 労災によって後遺障害が残った場合、 年金又は一時金が支払われます。 |
遺族補償給付 | 労災により労働者が死亡した場合、 遺族に対して、年金、一時金が支払われます。 |
また、この他にも労災による休業期間中は解雇をすることは法律上できません。
会社に対して損害賠償請求することができる場合もあります。
労災の発生に関して、会社に安全配慮義務違反がある場合には、会社に対して損害賠償請求をすることができます。
例えば、転落の危険がある場所にもかかわらず転落防止の措置をとっていなかったり、危険な機械を使うにもかかわらず、安全教育を十分に行っていなかったりなどです。
この場合には、労働者は交通事故の場合と同じように、慰謝料、休業損害、後遺障害逸失利益等を請求することができます。
労災事件で弁護士を依頼するメリット
労災事件で必ず会社が申請に協力するとは限りません。また、長時間労働による労災の場合などには、膨大な資料を分析することが必要な場合があります。会社が十分な資料を出さない場合には、証拠散逸を防止するために裁判所に申し立てを行い、証拠の保全を行うこともできます。
そのような場合、専門家である弁護士に依頼することで、確実な労災保険給付申請手続きができます。
また、会社に対する損害賠償請求のためには、会社に過失があることが必要です。過失の有無に関しても、個人で交渉するよりも、専門家である弁護士が関わった方がよい結果になります。
移動式クレーンのワイヤ破断による労災死亡事件
労働災害訴訟で逆転勝訴判決を得た事案
2017年2月9日、名古屋北法律事務所が受任していた労災事件で、労働基準監督署の行った不支給処分を取り消す判決が出ました。この事案は会社に併設された大浴場の清掃を行っていた依頼者が、清掃作業中に浴室に足を滑らせて腰を打ち付け、ガングリオン(一種のこぶ)を発症した事案です。労災を申請をしましたが、労働基準監督署が業務上の怪我と認めなかったので、訴訟となりました。
裁判は1審事件では、依頼者が個人で訴訟を行いましたが、地方裁判所は訴えを棄却しました。一審判決は事故の態様、依頼者の既往症、ガングリオンの病態等から業務によって発症したものではないとしました。控訴審から弁護士が代理人となり、依頼者の既往症は影響しないこと、ガングリオンの病態等について全般的に主張を見直した結果、本日、一審判決を取り消して、労働基準監督署の行った不支給処分を取り消す逆転勝訴判決を獲得しました。
研究開発職の過労死の事案(過労死)
過労死は多くの場合、背景に長大な労働時間がある場合がほとんどです。労働災害の認定基準でも労働者の時間外労働時間が1か月80時間を超える場合には、心筋梗塞、脳内出血などの脳心臓疾患の業務との関連性が肯定されやすくなります。この事件は、健康食品・飲料の製造・販売を行う会社で、亡くなられた方は研究開発に従事し、何件かの特許にも関与していました。また、新規の研究施設の立ち上げの仕事にも従事していました。
この事件では、会社は一定の役職以上になると、従業員の労働時間管理が全くなされなかったため、正確に労働時間を記録した資料がありませんでした。ただ、遺族が尽力をし、自ら会社に乗り込んで被災者が生前使用していたパソコンのデータやメールなどの記録を回収して証拠保全するほどでした。データの中には、パソコン上のファイルやフォルダの更新時間から、労働時間を推定し、かなりの長時間労働を行っていることが判りました。
訴訟段階では、裁判官は、労災認定が出ていることから、和解による解決について訴訟のかなり初期の段階から勧め、会社の社長を呼ぶように代理人に指示し、和解に応じるように説得をしました。最終的に、こちらの請求金額に近い金額の和解金の支払いだけで無く、会社側が労災認定処分を重く受け止め、遺族に対し心から謝罪の意を表明し、労働時間の適正な管理を定めた各種通達を遵守する条項も挿入されました。謝罪文言、各種通達の遵守がきちんと規定される和解条項は非常に珍しいものでした。
アスベスト吸引による労災申請
アスベスト粉じんの吸引による労災
アスベスト(石綿)は、かつて、「夢の鉱石」と謳われ、建物に多く使われてきました。しかし毒性が強く、肺がんや中皮腫等を引き起こすことがわかり、現在では新たな使用が禁止されています。昔建てられた建物にはアスベストが使われていたため、建設業や解体業の労働者が、業務中にアスベスト粉じんを吸い込み、それが原因で数十年後に肺がん等を発症して社会問題化しています。業務に関連してアスベストを吸引し、そのために疾病を発症し、療養や休業を余儀なくされた場合には、労災補償の対象となります。
約30年前のアルバイト
ある日息苦しくなって病院に行ったところ中皮腫と診断されたという方から相談を受けました。中皮腫はほとんどアスベストを原因として発症し、急速に進行する肺の病気です。職歴や生活歴を振り返ってみると、どうやら約30年前の学生時代、建物の廃 材を用いた埋立工事の現場でアルバイトをしていた際にアスベスト粉じんを吸い込んだようだということがわかりました。
アスベスト被害対策弁護団と共同しての事件解決
中皮腫がアスベストを原因として発症したことは疑いないとしても、当時学生であったご本人がアスベストを吸い込むような仕事をしていた事実をどう説明するか、という点が問題となりました。約30年前のアルバイト先の会社はすでに存在しておらず、埋立工事に関する当時の資料も残っていませんでした。 アスベスト被害対策弁護団の弁護士と共同して受任し、元従業員の方のご協力を得たり、ご本人の詳細な陳述書を作成したりするなどして労働の実態を 立証し、労基署に直接出向いて、なんとか労災認定を勝ち取ることができました。
工事現場転落事故の事案
事案の概要
X(24歳)さんが、足場(地上約8メートル)から転落して頭部を強打し、脳挫傷、脳高次機能障害の後遺症を負い、寝たきりの状態になりました。労災認定は受けましたが、事故現場の安全対策が全くなされていないと考えられたため、会社と元請け会社に損害賠償を請求する調停を提起しました。
元請の責任
直接の雇用先である下請け企業は零細企業で賠償能力がないため、元請け会社の責任が争点となりました。元請けは、法令を遵守している、Xさんが足場を使わず三回足場から二回足場に移動しようとしたために発生した事故であり、労働者の過失であると主張しました。
調停の経緯
取り寄せた労災認定資料等を調査した結果、足場のはしごに安全ネットが緊結されていたため、作業員が足場からはしごへスムーズに移動できない状態であったこと、足場の床板の幅が基準より狭かったこと、被災者だけでなく他の作業員も同様の方法で足場3層目から2層目に手すりを乗り越えて降りていたにも関わらず現場監督は何等注意せず黙認していた事実等が判明したため、これに基づき元請け会社の責任を追及しました。
最終的には、調停委員会から、主として元請けの足場管理に事故原因があり、労働者の過失は小さいという事実認定を前提とした和解案が提示されたため調停成立となりました。
中国人実習生の労災事件
増える外国人実習生労災
外国人研修・技能実習制度は、開発途上国へ日本の技術を移転することを目的に、外国人が日本の企業で働く制度です。制度としては、国際貢献・国際協力を目的に設計されていますが、実態としては、低賃金労働者として利用されています。特に、製造業の現場では、機械の操作など危険をともなう作業も行うので、本来ならば、日本語研修や実地研修も十分に行わなければなりませんが、これを怠る企業も多く、実習生の労災事故も多くなっています。
将来の経済成長を加味した水準で
名古屋北法律事務所では、自動車部品を扱う製造会社に受け入れられていた中国人実習生の労災事故の裁判を受忍しました。この事件は、労災事故の賠償金算定の基準となる平均賃金をどう考えるかが問題となりました。
外国人の交通事故などでも争われることがありますが、一時的に日本に来日し母国への帰国が予定されているケースでは、将来生活の本拠を置く国を基準にするという最高裁判決があります。しかし、現在の中国の農村の賃金水準では極めて低い水準となってしまいます(日本の約20分の1)。裁判では、中国の経済成長の実態なども様々な資料も提出し、中国水準としても将来の経済成長を加味すべきと訴えてきました。判決では、日本水準の25%まで認められる成果が得られました。
法律相談メニューのご案内
初回の法律相談は無料で行っております。
当事務所ではみなさまの普段の生活にあわせ、様々な法律相談メニューをご用意しております。
費用例(金額は税込)
下記はあくまで一例ですので、事件の内容等によって変動する場合がございます。たとえば、交渉、調停、訴訟と移行した場合、その後の着手金にはそれ以前の着手金を充当いたします。
手続 | 着手金 | 報酬 |
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労災申請の代理人 | 22〜44万円 | 労災給付額の11〜17.6% (年金の場合は7年分で計算します。) |
証拠保全 | 22~44万円 ただし、労災申請または会社に対する損害賠償を同時に依頼される場合は減額いたします。 |
発生致しません。 |
会社に対しての 損害賠償請求 交渉、訴訟 |
請求金額の 5.5〜8.8%(最低11万円) |
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一覧表に記載した着手金、報酬金の計算では、消費税を付加しています。
Nさん(26歳)は、工作機械を製造する工場で交替制勤務で働いていました。奥さんとの間には3歳、生後半年の子どもがいました。
平成27年4月、工場内で移動式クレーン(釣り下げ限界荷重14トン)に重量6トンの金型を吊り下げていたところ、同クレーンのワイヤロープが切れて金型が落下し、金型がNさんを直撃。下敷きになったNさんは病院に救急搬送されましたが、間もなく亡くなりました。
同事故について、ご遺族から会社に対する損害賠償請求の依頼を受け、名古屋地方裁判所に民事訴訟を提起し、平成28年11月、和解が成立し解決しました。会社側は、和解の中でワイヤロープを構成する素線が劣化してロープの破断をもたらしたという原告側の主張を認め、労災補償給付とは別に損害賠償を行いました。さらに、会社の本社工場に遺族を招き、代表取締役社長が謝罪するとともに、事故現場で黙祷を捧げ、安全管理担当者が事故再発防止のために講じるべき措置等について説明を行いました。
いつも思うのは、必要な措置を講じれば事故を未然に防止することができたのに、なぜそれを死亡事故が発生するまでできないのかということです。この事案では、死亡事故後、会社はワイヤロープの劣化を検査する精密な機械を導入しました。この装置はきわめて高額なであり、労働安全衛生法で義務づけられたものではなかったこともあって、事故当時は導入されていませんでした。しかし、人間の命はかけがえのないものです。労働者の命が利益追求の陰で犠牲となっていないか。労働安全衛生法規は、労働者の命と安全を守るものとなりえているか。弁護士としてこのことを今後も問い続けていきたいと思います。同時に、労働現場のあり方の変革が必要であることを痛感します。会社主導の安全衛生委員会等による労働安全衛生向上の取り組みも必要ですが、下からのチェックも不可欠ではないかと思います。