男女の賃金格差
2015年8月、仕事で活躍したいと希望する女性が個性や能力を存分に発揮できる社会の実現を目指す「女性活躍推進法」という法律が成立しました
多くは301名以上の労働者を雇用する大きな事業主を対象としていますが、同法律により事業主には様々な対応が求められており、その中の一つに情報公開義務があります。
直近の制度内容では、上記の対象事業主は、①「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」として、採用した労働者に占める女性の割合、労働者の女性の割合、管理職に占める女性の割合など8項目のうちから1項目以上を、②「職業生活と家庭生活の両立」として男女の平均勤続年数や男女の育児休業取得率など7項目から1項目以上を選択して情報公開することが必要でした(なお、2022年4月以降に101名以上の労働者を雇用する事業主も、①+②のいずれかから1項目以上の項目の開示が義務化されました)。
さらに、2022年7月8日施行の省令により開示項目が一つ増え、「男女の賃金の差異」の情報公開が必須となりました。全労働者、正規、非正規の3区分それぞれについて、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を公表することになります。
公開された情報は厚生労働省のデータベースで確認できます。もっとも、決算期が12月や3月の企業が多いため、賃金格差に関する情報開示が本格化するのは来春以降となる見込みです。
例えば、そもそも情報公開を怠っていたり、公開された内容に男女差が大きい場合、企業はマイナスイメージを持たれることになり、採用や従業員の定着に悪影響を及ぼすことになります。このように格差を「見える化」することで、女性の管理職登用や、出産・育児を経ても働き続けられる環境整備を促すことが制度の狙いです。
また、男女の賃金格差の問題は賃金の問題だけにはとどまりません。私は、平成24年の年金法改正による年金切り下げを争う裁判の弁護団をしていますが、女性の低年金にもつながる問題です。出産育児を機に退職したことで年金が少なくなる方もいますが、定年までフルで働き続けた方でも、現役時代の男女の賃金格差が厚生年金にも格差をもたらします。
男女の賃金格差を解消していくためにも、新制度を活かして、企業が男女の賃金格差を意識しているかを監視していくことが必要です。
弁護士 新山直行(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)