離婚後共同親権の問題点
現在、日本は、離婚の際に父母の一方を親権者と定める単独親権制度をとっていますが、父母の双方が親権者となる「離婚後共同親権」への法改正を求める声があります。離婚はあくまで親の都合であり、離婚後も両親が子を共同で養育し、責任を持つのが良いという考えは、一見当然のもののように見えます。
しかし、離婚後共同親権の導入には、大きな問題があります。それは、DVや虐待に関する日本の施策が不十分な中で、共同親権という枠組みが先行すると、DV等の加害者が、元配偶者や子どもへの支配を継続し、その安心・安全を脅かしかねないという問題です。「共同親権」が導入されると、共同でないと親権を行使できなくなり、進路や引っ越しなどの決定を、元配偶者との話し合いで決めることが要請され、合意できなければ裁判所で決めることになるからです。2019年司法統計の女性側の離婚調停申立理由を見ると、「精神的に虐待する」は11094件、「暴力をふるう」は9039件で、申立理由の中で高い割合を占めています。
「共同親権」を導入している国でも、DVや虐待の主張をしたが認められず、「非友好的」とみなされたがために、加害者に親権が認められてしまう事例が頻発したため、制度の見直しが進んでいます。
親権など子どもに関する裁判は、子どもの福祉を最優先に考えるため、専門家による調査やきめ細かな配慮ができるように家庭裁判所が専門的に担っています。現行民法下でも、良好な関係にある夫婦が、子どもを共同で監護することを認められており、両親・親子の関係が良好な場合には、離婚後の共同養育は可能です。家庭裁判所の実務上も、別居後の面会交流は広く認められる傾向があり、親子の交流は続けられるケースがほとんどです。親子が会えないケースにはそれ相応の理由があります。「離婚後共同親権」については、DV・虐待被害者をこれ以上苦しめることのないように、慎重な検討が必要です。
弁護士 裵明玉(名古屋北法律事務所)
(「年金者きた」へ寄稿した原稿を転機しています)