ハラスメント対策を考える
「セクハラ」や「パワハラ」など、いわゆる〇〇ハラスメントという問題が、色々な場面で取り上げられるようになり、企業経営でも避けては通れない問題となっています。
2019年には、いわゆる「パワハラ防止法」が成立し、2022年4月からは中小企業も適用対象となります。セクハラ防止施策についても男女雇用機会均等法で法制化されています。
そこで、今回はハラスメントの実態やハラスメントが発生する要因を確認しながら、ハラスメント対策について考えていきます。
ハラスメントとはなにか?
「ハラスメント」というと「セクハラ」や「パワハラ」の他にも、妊娠した労働者への嫌がらせであるマタニティハラスメント、飲酒に伴う嫌がらせであるアルコールハラスメントなど、企業を取り巻くハラスメントは多様です。企業以外でもモラルハラスメントやアカデミックハラスメントなど、あげればきりがありません。
では、「ハラスメント」とは何か?英語の翻訳としては、「いじめ」とか「嫌がらせ」などと訳されますが、広い意味では、他者にとって「不快」と感じる行為や態度を意味するとされています。ここで、他者にとってという言葉がでてきますが、行為や態度をした本人の意図ではなく、他者がどう受け止めるかということが重要になります。
ハラスメントの実態
はじめに、国や民間企業の調査資料の一例を紹介しながら、ハラスメントの実態を取り上げます。
まずは、労働紛争の場面でハラスメントの訴えがどのように増えているかを確認します。各都道府県労働局などの労働相談コーナーに寄せられた相談の統計では、「いじめ・嫌がらせ」の相談は、平成19年度に28336件、全体の12.5%の割合だったのが、令和元年度には、87570件、全体の25.5%と年々増加しています。労使関係においてハラスメントが重大な問題となっているのです。
では、ハラスメントを受けた人にはどのような影響があるのか。これは、日本労働組合総連合会が2021年に「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」という調査をしており、これによると、第1位は「仕事のやる気がなくなった」で全体の56.8%となっています。ハラスメントが発生すると、業務に支障が出ることが明らかになっています。企業にも不利益があるのです。それだけではありません。第2位は「心身に不調をきたした」で24.1%、他にも「夜、眠れなくなった」が18.5%、「人と会うのが怖くなった」が9.9%と、ハラスメントを受けることで、その人の健康状態を脅かしてしまうこととなります。
主な影響はうつ病などの精神疾患として現れますが、精神疾患は単に心の病というだけでなく、場合によっては自殺などの最悪の事態も招いてしまいます。ハラスメントは、そうした問題を引き起こすことを受け止めて、対策を考える必要があるのです。
ハラスメントの要因
次にハラスメントが発生する要因についてです。
ハラスメントの要因には大きく分けて、(1)個人の要因と(2)職場の要因があります。
個人の要因は、ハラスメントをしてしまいがちな人はどんな人かという趣旨です。明確に線引きができるわけではないですが、ある研究では、自分の力が他者と比べて大きい、強いと認識しているタイプ、自分が完璧であることが最大の価値であるタイプ(求める能力の基準が高くなりがち)、自分の上役から認められることが何よりも大事であり、自分に対する高い評価を求めているタイプはハラスメントを起こしやすいとされています。
個人の要因は、簡単には変えることが難しいですが、自らがそうした要因があるのではないかと常に気にすることが重要です。
次に職場の要因ですが、これは、職場環境を意識することで改善につながります。特に①過重労働とストレス、②職場のコミュニケーション不足、③成果主義、④雇用形態の多様化、⑤閉鎖的な職場、⑥ハラスメント意識の欠如などの環境がないか注意しましょう。
過重労働によるストレスがイライラを引き起こし、他者の人格を否定する言動につながりやすいことや、普段からコミュニケーションが不足しており他者を認められない環境にあることがハラスメントにつながりやすくなります。他にも正規非正規の立場の違いや、外部の意見を取り入れにくい会社はハラスメントにつながりやすいとされています。こうした環境にある会社では特にハラスメントが起きていないか、気にかける必要があります。
ハラスメント対策
最後にハラスメント対策についてです。
最も重要なのはこれまで述べてきたことを踏まえて、日常的に、自社においてハラスメントが発生していないか、発生しそうな要因はないかを気に掛けることです。
これに加えて、法律では、いわゆるパワハラ防止法が、2022年4月から中小企業においても適用対象となり、同法律で事業主が行うべき対策を定めています。
まず1つ目は「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」です。職場においてパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発することが求められています。また、万が一パワハラ行為者が発生した場合、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等で定めて周知・啓発することも求められています。
次に「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」です。事業主として、ハラスメント被害の相談窓口をあらかじめ定めておき、労働者に周知することが必要です。ハラスメント相談窓口は、社内の担当者を決めたり、適切な方がいなければ外部の専門家に依頼したりすることもできます。そして、相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることが必要になります。
また、「職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応」も必要です。万が一ハラスメントが発生した際に、迅速かつ正確に事実関係を把握し、被害者に対する配慮の措置を行い、行為者に対する措置や再発防止策を定めます。
こうした調査や対策は、事業主で行うのが困難な場合には、専門家に依頼することもできます。弁護士法人名古屋北法律事務所でも、事業主の皆様のご相談もお受けしていますので、お困りごとがありましたら、お気軽にお声かけください。
弁護士 加藤悠史(名古屋北法律事務所)
(「名古屋北部民商ニュース」へ寄稿した原稿を一部修正したうえで転機しています)