民主主義の冒涜―リコール署名不正事件
リコール制度は民主主義の原点
連日、大村知事のリコール署名不正事件が新聞で取り上げられています。リコール制度というのは、直接市民・住民の声を政治や行政に反映させる制度の一つとして地方自治法上設けられているもので、例えば、今回のような首長の解職請求や議会の解散請求などです。その他の直接民主制的な制度としては条例制定請求があります。これらは、間接民主制を補う、まさに民主主義の原点のような制度だと思っています。
この制度を利用するには極めて厳格な手続きが定められており、直接請求人及びその人から委任を受けた「受任者」しか署名を集めることができませんし、署名者本人の自筆(筆記できない人のための代筆規定はあります)及び捺印が必要です。
大規模で組織的な偽造署名の作成
今回の大村知事解職請求のためのリコール署名は、高須克弥氏を代表とする団体により呼びかけられ、河村市長が先頭に立って応援していました。署名提出時には約43万5千筆の署名が集まったと発表されたものの、その後の調査や取材でそのうち83%が無効な署名であり、バイトを雇って「偽造署名の大量生産」がされていたことなどがわかっています。
リコール署名は、必要数を超える署名が提出された場合には一つ一つ署名者の氏名が選挙人名簿に搭載されているか精査されるのですが、必要数に達しない場合には署名の真偽について確認しないこととなっています。不正行為の首謀者らは、この点を利用して、必要数に足りない以上バレることはないだろうと高をくくって、「インチキでもいいからとにかく署名数を水増ししておけ」と考えて、大量の「署名偽造業務」を発注したのではないかと思います。
こんなことが一度行われてしまったら、民意の反映にとって大切な直接請求制度への信用はガタ落ちで、これから私たちが正当に直接請求の運動をしようとしても疑いの目で見られてしまう可能性がありますし、すでに牽制の動きが見られます。
河村市長の責任は重大
その意味で、今回の不正行為は、民主主義を破壊する極めて悪質で許し難い犯罪行為であることは明らかです。そして、この運動を先頭に立って応援してきた河村市長の見識のなさ、政治的責任は重大です。直ちに辞職すべきです。
この問題については、不正を許さない運動が巻き起こっており岩城正光弁護士を中心とする「不正リコールを許さない市民の会」が結成されています。この運動を引き続きを応援しましょう。
弁護士 伊藤勤也(名古屋北法律事務所)
(2021年3月「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)