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自粛要請と営業補償(憲法29条3項)

2020年05月26日

 新型コロナウイルスの感染拡散防止のため、緊急事態宣言が発出され、不自由な生活を強いられていることと思いますが、いかがお過ごしでしょうか。

 学校も休校が長引いて子どもたちと一日中一緒にいるのも限界だとか、家でじっとしているとストレスがたまって家族間でも不和が生じるとか、いつも行くお店が閉まっていて不便だとかいう声をたくさん聞きます。

 それぞれ重大な問題なのですが、とりわけ、営業自粛を求められて、お店を休業にしたり時間を短縮したりしなければならない自営業者の皆さんにとっては死活問題で、廃業に追いやられる人たちも多いと思います。

 そんな中での国会論戦で、特に日本共産党などの野党から「自粛と補償をセットで」という主張をよく聞きますが、自粛を求める政府(国)には法律上、営業補償を行う義務はないのかと感じることでしょう。

 たしかに現在の緊急事態宣言発出の根拠法である新型インフルエンザ対策特別措置法(以下「特措法」)には、補償を必要とする条文はありません。では補償は不要なのかと言うと、そうではなく、憲法上の権利として補償を求めていく方法があります。

 それが憲法29条です。29条3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定めています。逆に言えば、公共のために私有財産を用いた場合には正当な補償をしなければならないのです(損失補償)。典型的には、公共のために土地を収用(取り上げる)した場合に、土地の対価を補償する、という場面です。

 しかし、このように財産を取り上げる(収用)場合だけではなく、別の形で公共のために私有財産の利用を制限して財産上の損失を被った場合についても、この条文を使って損失補償すべきだという解釈(学説)があります。今回のケースはまさしく、国民への感染拡大防止という公益目的(公共のため)があって、自営業者に営業上(財産上)の損失を強制しているようなものですので、当然、29条3項に基づく損失補償がされてしかるべきなんです。

 それを定めていない現行の特措法は欠陥法(違憲な法律)です。直ちに違憲状態を解消するように法を改正して、国民のために営業を我慢して耐えている事業者の皆さんに、税金によって、正当な営業補償をするよう求めていく必要があります。

  弁護士 伊藤勤也(名古屋北法律事務所)

(2020年5月「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)

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