年金裁判便り その1
原告の方もおられるかと思いますが、平成27年5月、名古屋地方裁判所に対して年金の切り下げを不服とする裁判を提訴しました。
皆さんの中には、年金はもともと毎年上下するものであって、年金が下がったといって何を争うの?と思う方もいるかもしれません。確かに、国は毎年、年金額を決定します。すでに年金を貰っている方は、当年度受給していた金額をもとに物価の上下にあわせて次年度の金額が決定されていました。つまり、物価が上がっても貰える年金も上がれば生活水準は変わらない、逆も然りという仕組みでした(ただし、今は物価の上下以外も考慮されます)。
しかし、デフレの始まりかけた頃、物価下落に合わせて年金も下げると財布の紐が益々きつくなり、さらにデフレが進むのでないかと国は考えました。そこで、物価は下落したけれど平成12年度の年金額は前年の額を維持すると法律で決めました。同じように、平成14年度まで年金額の維持が3年続きました。そのため、仮に物価に合わせて年金を下げた場合よりも1.7%高い水準になりました。
すると平成16年になって、国は高い水準で年金を払いすぎているから元の水準に戻すと決めました。国が政策判断として年金を下げないとしておきながら、これを翻すこと自体いかがなものかと思いますが、百歩譲って元の水準に戻すことはやむを得ないとしても、その方法は「物価が上がったときに年金額を上げずに維持する」と法律で決めたはずでした。しかし、なかなか物価の上昇がなく、平成24年、国は痺れを切らせ、物価の上下等に関わらず強制的に年金額を切下げるという法律を作りました。私たちが裁判で問題にしているのはまさにここです。物価の変動以上に切下げがあると生活への影響が大きいために物価が上がったときに維持するという方法を採ったはずなのに、これを反故にして、生活に直撃するような強制的な切下げをとったことに文句を述べるものなのです。
この裁判では憲法上の権利や年金制度など国の社会保障政策全体の問題点を露呈させる裁判になっています。引き続き触れていきたいと思います。
弁護士 新山 直行 (名古屋北法律事務所)
(「年金者しんぶん」へ寄稿した原稿を転載しています)