子どもを産む権利
強制不妊手術で国に対して裁判が起こされました。
旧優生保護法で不妊手術を強制された女性が、国に損害賠償を求める訴訟を起こした、という報道がありました.女性は1972年、15歳のときに手術を強制されていたそうです。日本にはかつて優生保護法という法律があり、同法の下で約2万5000人が、精神疾患やハンセン病などの症状を理由に不妊手術を受けました。一定の場合には同意なく不妊手術をすることができ、女性が1972年に同意なく不妊手術を受けていたことが、昨年夏に判明し、今回の提訴に至ったそうです。
子どもを産む権利、産まない権利
憲法には子どもを産む権利、産まない権利について明文はありませんが、憲法13条の幸福追求権に基づいて認められています。特に、出産は女性の一生を左右し、その女性の生き方の根本にかかわる問題です。そのため、当然に認められるものと考えて良いと思います。
そして、権利が制限を受けるのは他の権利と衝突をしたり、権利行使をさせるとその人に重大な結果をもたらすような場合でなければなりません。例えば、母体保護法では、中絶手術ができる時期は「妊娠22週未満(妊娠21週6日)まで」と決められています。これは中絶による母体のリスクがあるため、産まない権利が制限を受ける場合です。
旧優生保護法の目的
旧優生保護法の目的は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする」とあります。「不良な子孫の出生を防止」するのは、遺伝的に優れた者だけを残そうとする優生学の考え方に基づいていますが、これは国や社会の都合に過ぎません。本人の同意なく、強制的に不妊手術を行うことは、別に誰かの権利と衝突するものではありませんし、障害を持っていても社会の助けを借りながら子どもを産み、育てることは可能でしょうし、そのような社会にするように憲法は求めているのです。旧優生保護法はこの点から、憲法13条に違反して無効なものであることいえます。
国は早期に被害者救済を図るべき
日本は、国連から被害者の救済のために必要な措置をとるように勧告を受けていますが、過去にさかのぼって補償することは考えていない、と回答をしたそうです。しかしながら、女性にとって極めて重要な権利を、憲法に反して制限したものと考えられる以上、賠償、補償がなされなければいけません。強制不妊手術については、日本だけでなく、福祉先進国であるノルウェー、デンマーク、フィンランド、ドイツでも行われていたそうです。しかし、ドイツ、スウェーデンは,国としての正式な謝罪及び補償を行ったそうであり、日本もこれに倣うべきです。
弁護士 白川秀之(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)