裁判員裁判について
裁判員制度
平成16年5月21日に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が,成立し、平成21年5月20日までに裁判員制度がスタートすると言うことで現在、その準備が進んでいます。
裁判員制度は国民の司法参加の一環として、導入され、国民の常識を司法の場に反映させようとするものです。すでに、裁判員にもわかりやすく、かつできるだけ事件を集中的に審理できるようにするための公判前整理手続が平成17年11月よりスタートしています。
名古屋地方裁判所でも大法廷である2号法廷が改築され、裁判員裁判用に裁判官の座る位置に9人分の椅子が設置されるようになりました。
裁判員制度の対象事件
裁判員制度の対象となる事件は、以下のようになっています。
(1)死刑又は無期の懲役・禁固に当たる罪
(2)法廷合議事件(短期1年以上の懲役刑の事件)で故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪
具体的には殺人罪、傷害致死罪(殺す意思がなく暴行を加えて結果として殺してしまった場合)、危険運転致死罪(飲酒や信号無視などの危険な運転行為で人を死亡させた事件)が当たります。
平成16年の事件では、3308件が裁判員裁判の対象となる事件となっています。
裁判員はどのように選ばれるか
裁判員は以下のような順序で選ばれます。
(1)選挙権のある人の中から、翌年の裁判員候補者となる人を毎年抽選で選び、裁判所ごとに裁判員候補者名簿を作ります。
(2)事件ごとにくじで、裁判員候補者が選ばれます。
事件ごとに、1の名簿の中からさらに抽選でその事件の裁判員候補者を選びます。選ばれた人には、裁判所に来てもらう日にちの連絡があります。
(3)裁判所で、候補者から裁判員を選ぶための手続が行われます。
裁判長から、被告人や被害者と関係がないかどうか、不公平な裁判をするおそれがないかどうか、辞退希望がある場合はその理由などについて質問されます。検察官や弁護人は、その質問の結果などをもとに裁判員候補者から除外されるべき人を指名することができます(双方4人まで理由を示さずに、指名することができます。)
(4)その後、除外されなかった候補者からくじで裁判員が選ばれます。
裁判員の選任を辞退できる場合として以下のように法律で規定されています。
・70歳以上の人
・地方公共団体の議会の議員(ただし会期中に限ります。)
・学生,生徒
・5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人及び1年以内に裁判員候補者として裁判員選任手続の期日に出頭した人
・一定のやむを得ない理由があって、裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難な人(やむを得ない理由としては、重い疾病や傷害、同居の親族の介護・養育、事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある場合、父母の葬式への出席など社会生活上の重要な用務がある場合などです。)
ですので、単に自信がないとか、仕事が忙しいと言う理由だけでは辞退できません。
裁判員の仕事
裁判員として選ばれた人は、まず公判に立ち会わなければなりません。
公判ではどのようなことをやるかというと
(1)冒頭手続き 起訴状を朗読
被告人に黙秘権を告知
起訴状の事実に間違いがないかを聞く(罪状認否)
(2)証拠調べ手続
・検察官や弁護人の冒頭陳述
検察官や弁護人が証拠で証明しようとする事実の紹介。(あくまで紹介であって、その通りの事実があるのかどうかは証拠から認定します。)
・証拠調べ請求
証拠を裁判所に出して良いかを決めます。証拠申出には必ず、相手(検察官であれば弁護人、弁護人であれば検察官)の意見を聞かなければなりません。また、文書の証拠については同意がない限り原則として証拠として法廷に出すことはできません。
・証拠調べの実施
出された証拠の取調を行います。証人であれば尋問をし、調書であれば朗読をします(実務上朗読は現在の所ほとんど行われていません。ただ、裁判員裁判では朗読をしようとする動きがあります。)裁判員も証人に質問することができます。
(3)論告、弁論
証拠調べが終わった後に、検察官、弁護人双方がそれぞれ事件についての意見を言い合います。検察官の意見を論告、弁護人の意見を弁論と言います。また、検察官の論告の際に求刑の意見も出されます。
(4)被告人の最終意見
論告弁論の後に、被告人が最後に事由に発言する機会が与えられます。
(5)評議
審理が終わった後に、裁判官と裁判員は事件について討議します。その評議の後に、結論をどのようにするのかの評決を行います。評決は多数決により行われます(ただし、裁判官、裁判員のそれぞれ1名以上の賛成が必要)。
評議の内容については、裁判員には守秘義務が科されます。これを破った場合には6ヶ月以下の懲役、50万円以下の罰金刑が規定されています。
(6)判決
裁判員裁判に向けて
裁判員裁判は、近年の司法制度改革の目玉と言うべきものです。
特に、これまでとは違い、常にかつこれまでよりも強い形での国民の目が裁判に向けられることになります。そのため、今後の、弁護士、検察官、裁判官の取り組み如何によっては、国民の司法に対する信頼を大きく損ないかねないものであると言えます。
とりわけ、裁判員制度は、これまで法曹という法律専門職がになっていた権限を一般の国民に対しても負担させるものであり、それに伴う国民の負担は大きいと言えます。そのため、これまで以上に法曹が審理を工夫してわかりやすいものにしていく必要があると思います。