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原爆症認定集団訴訟 名古屋地裁判決

2007年03月23日

被爆者行政三度断罪(名古屋地裁判決)

 2003年4月から始まった愛知の原爆症認定訴訟。その判決が1月31日に下されました。報道にもありましたように、名古屋地裁・中村直文裁判長は原告4人のうち、2人の疾病が原爆放射線に起因すると認めて不認定処分を取り消しましたが、残りの2人の請求を棄却しました。

当日の動き

 判決当日の朝,10時30分からの判決言い渡しを前に大勢の支援者,被爆者が集まり,マスコミも多数スタンバイ。80名定員の傍聴席は抽選となり,マスコミも傍聴しようとするため,私たち支援ネットのメンバーが傍聴券を獲得できたのは,40枚程度でした。いよいよ10時30分となり,緊張の時間。若手弁護士(名古屋第一法律事務所の中山弁護士と名古屋E&J法律事務所の吉江弁護士)が掲げた旗は、「一部勝訴」と「被爆者行政を断罪」でした。原告4人全員が認められない判決とわかり,歓声は沸き起こりません。誰が認められなかったのだろうかと複雑な思いでした。

 法廷から出てきた人に聞いてもすぐに結果はわかりませんでした。弁護団に聞いて,甲斐さんと小路さんが認められ,中村さんと森さんが認められなかったことがわかりました。どうしてこのような判決が出るのだろうと複雑な思いが支援者の共通な思いだったと思います。しかし、入市被爆者の甲斐さんが認められるなど、国の認定基準を断罪したことはまちがいありません。

 弁護団はすぐに判決評価に移り,11時40分頃から記者会見。併行して報告集会を行いました。残念ながら敗訴した中村さんも森さんも、記者会見や報告集会に参加され,控訴して断固頑張る姿勢を、本当に悔しい思いの中示されたのが,私たちに勇気を与えられたと思います。

 当日は本当に大勢の方に参加いただきました。ありがとうございました。

 被爆者支援ネット 事務局 長尾忠昭

澤田昭二先生のコメント

 1月31日の原爆症認定集団訴訟名古屋地裁判決は、昨年の大阪地裁、広島地裁につづいて、「原因確率」を形式的に適用すれば、誤った結果を招く危険性があるとして厚労省の認定行政を批判しました。そして遠距離・入市被爆者の脱毛,下痢などの症状は急性放射線症状であると認めて、入市被爆者の甲斐さんと爆心地から1.7キロで被爆した小路さんの原爆症を認定しました。しかし、これまでの大阪、広島の全員勝訴と異なって、中村さんと森さんは原爆症と認定されませんでした。2人とも急性症状から判断すれば当然認定されるべきです。総論では大阪と広島地裁の判決と同じ判断に立ちながら、なぜ2人が認定されなかったのか。判決全文を読んで2つのことに気づきました。

 1つは、「原因確率」を求める基礎になった放射線影響研究所(放影研)の調査研究の重大な欠陥について判決の理解が不十分なことです。放影研は従来、被爆者集団と比較するための被曝していない比較対照集団(コントロール)として遠距離被爆者と入市被爆者を選んで比較する「外部比較法」を用いていました。残留放射線の影響を受けている被爆者を原爆放射線に被曝していないコントロールとする「外部比較法」では本当の被曝影響を知ることができないと批判されて、最近では遠距離被爆者も含めたポワソン回帰分析による「内部比較法」を用いています。しかし、初期放射線のみを被曝線量としたのでは、遠距離被爆者の被曝線量は実質ゼロで「内部被曝法」も「外部比較法」と同じ欠陥を持ちます。判決ではこの点を指摘した原告の主張を理解できないで退けた結果、重大な欠陥のある放影研の研究結果に引きずられています。

 もう1つは、大阪地裁や広島地裁の判決では、放射線の影響の研究はまだ未解明であるという前提に立って、急性症状の発症など放射線影響が認められる場合に は原爆症と認定したのに、中村さんと森さんの疾患については逆に未解明を理由に認定を認めなかったことです。これでは科学的解明がおこなわれるまで認定し ないというに等しい判断です。こうした判決がおこなわれると、行政の過ちを司法が繰り返すことになりかねません。

 私は2月5日から7日までマレーシアの首都クアラルンプールで開かれた国際会議「戦争の犯罪をあばき、戦争を犯罪とする」に参加し、原爆投下の犯罪、とり わけ原爆症認定集団訴訟で明らかになった残留放射能による内部被曝の深刻な影響が62年を経た今日まで被爆者を苦しめていること、これを隠蔽してきたアメ リカとこれに追従する日本政府の犯罪性を報告してきました。

*「原因確率」は被曝線量から被爆者の障害が原爆放射線によって起こった可能性を確率で表したものですが、放射線感受性には大きな個人差があり、統計学的に得られた平均的結果を個々人の障害の発症原因の判断に用いるのは統計学の誤用です。

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