中小企業と交通事故(3)−従業員が交通事故被害者の場合
今回は社員さんが交通事故の被害者になった場合を考えてみましょう。
交通事故の被害者になるといっても、大きく分けて業務中(あるいは通勤中)と私的な場合の2通りがあります。
(1)業務中(通勤中)の場合
業務中やあるいは通勤中の場合に交通事故にあえば、労災保険が適用されることになります。労災保険は、従業員が加害者であるか被害者であるかは関係なく業務に起因するものであれば支給される保険ですので、厳密には被害者になった場合にだけ問題になるものではなく、前回の加害者になった場合にも問題になり得ます。
それでは、労災保険と自賠責保険(交通事故の被害者としての請求)はどちらが優先するでしょうか。法律上は、労働者の希望により自由に選択ができます。
ですので、労災保険申請を希望すれば、会社としてはその手続に応じてあげなければなりません。
ただし、厚生労働省は「原則として自賠責保険の支払を労災保険の給付に先行させるよう取り扱うこと」(昭41.12.16基発1305号)という通達が出ているため、現実的には、労働基準監督署において、自賠責保険を優先するように言われます。
といっても、労災保険は当該労働者の過失に無関係に100%給付されるので、過失がある場合などには両方とも申請することになるでしょう。
(2)私的な事故の場合
では、私的な事故で労働者が怪我をした場合などはどうでしょうか。私的な場合ですので、労災は問題になりませんし、会社としての責任が発生することもないでしょう。
しかし、怪我をして会社を休まなければならなくなった場合には、対応が必要な場合があります。
まず、私傷病の場合にも、健康保険には所得保障の制度(傷病手当金)がありますので、会社としては傷病手当の支給手続に応じる必要があります。
また、休職も問題になります。休職は雇用されたまま長期間の労働義務が免除され、かつ雇用契約はそのまま持続すること。休職については、就業規則等で定められることになりますので、規則をよく確認する必要があります。規定がない場合には、労働者とよく話し合って決めることが第一でしょう。休職が長引く場合には、就業規則に休職期間満了時に退職となる規定があれば、休職期間満了が近づいてきた頃に、症状や職場復帰の可能性について、医者の意見も参考にしながら労働者とよく話し合うことが必要です。それでも職場復帰できない場合には、最終手段として退職という扱いにせざるを得ない場合もあるかもしれません。
いずれにしろ、私傷病により休職する場合には、就業規則の規定をよく確認することと、怪我の状況により仕事ができるかどうか、よく労働者と話し合う事が必要です。
2014/1/8 弁護士加藤悠史
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)
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