ホウネット法律講座、「『名ばかり管理職』問題と労働基準法」の概要
「『名ばかり管理職』問題と労働基準法」の概要
5月に行われたホウネット法律講座、「『名ばかり管理職』問題と労働基準法」の概要をお知らせします(講義は、長谷川一裕弁護士。当日の講義内容の骨子に一部加筆訂正を加えています)。
【第1】 大きな反響を呼んだマクドナルド店長の裁判
労働問題に詳しい弁護士から見れば、当然の判決内容。
なぜ、大きな反響を呼んだのか
(1)「管理職は残業代出ない」、という変な常識が如何に日本で広く蔓延しているか娘が飲食店で働いているが、店長は開店から閉店まで10時間以上働き、休みもない。バイトが休めば自分が出る外はない。チェーン店の飲食店の店長は、殆ど「マック店長状態」ではないか。
(1) 被告企業の知名度もあった
(2) 勇気ある原告のたたかいー退職後にたたかう人は多いが、辞めずに頑張った。
【第2】 労働時間に関する労働基準法の規定は概略、どうなっているか。
第32条 週40時間制、一日8時間労働の原則
違反には罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)
第32条の2 一ヶ月単位の変形労働時間制
第32条の4 一年以内の変形労働時間制
第32条5 一週単位の変形労働時間制
第32条の3 フレックスタイム制
第33条 非常時の時間外労働
第40条 特例
以下の事業について、一週46時間、一日8時間労働制等が認められる。
(1)物品の販売、配給、保管もしくは賃貸または理容の事業
(2)映画の映写、演劇その他の興業
(3)病人等の治療、看護その他保健衛生の事業
(4)旅館、料理店、接客業または娯楽場の事業
【第3】管理監督者に関する規定はどうなっているか(労働基準法41条2号)
第41条 労働時間、休息及び休日に関する規定は、次の各号に該当する労働者には適用しない
(1)第8条第6号、7号の事業に従事する労働者
(2)事業の種類に関わらす監督または管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
(3)監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者
上記のうち、(2)が問題となる。
【第4】「管理監督者」って何だ?
〈判断基準〉は、次のような三つの要素からなる。
(1)職務の内容、権限、責任
(2)出社、退社の自由度
(3)その地位にふさわしい処遇
管理監督者の定義と判断基準は極めて厳しく、裁判になった事例では、殆どが労働者勝訴に終わっている。
(1)については、従業員の採用権限、部下の従業員に対する査定、昇進・昇格の決定等の権限があるか、経営方針を策定する会議に出ているか否か等が目安になる。パートの面接はしても採用を決めるのは本社、ではダメ。本社で行われる店長会議は、殆どは、経営方針を決めるという要理は、営業目標達成のためにハッパをかける会議であり、それに出ていても管理監督者になる訳ではない。
(2)については、販売店、営業店の店長や支店長等も殆どはタイムカードで労働時間が管理されていることが多い。仮にそうでなく、名目上は出退勤の自由があるよと言われていても、店の営業時間によって事実上、拘束されている場合が多く、その場合は管理監督者には当たらない。
(3)についても、何らかの管理職手当のようなものが出ていても、殆どのケースでは実際の残業に見合う金額にはなっていない場合が殆どであり、「地位にふさわしい処遇」を受けている管理職、店長は少ない。
日本マクドナルドにおいては、4547名の社員のうち、1715名が店長であり、店長は、社員の採用権限はなく、昇格についても上司の決裁が必要、アシスタントマネージャーの査定も一次評価者に過ぎず、店舗の運営についても、営業時間、メニューなどについて裁量はないという。
これでは、到底、労働基準法上、割増賃金支給の適用除外となる管理職言えないのは当然だ。
マクドナルドは、同敗訴判決を受け、店長に割増賃金を認めるようになったと報じられている。
しかし、「名ばかり管理職」、「名ばかり店長」は全国に溢れている。支払うべき人にきちんと割増賃金を支払うだけでも、それは日本の内需振興に一役買うことになるに違いない。