高齢者・障がい者をサポートする制度(3)任意後見契約vol.1
1 任意後見契約制度ができた理由
(1)自分の将来の生き方は、自分で決めたい!
日本は高齢化社会になりました。誰しもが、自分の将来を考えたときに、年相応に、あるいは認知症などによって判断能力が低下するだろう、と思うことでしょう。
年をとってからも、自分の生活のあり方は自分で決めたい、というのが多くの人の感覚だと思います。といっても、将来、自分の身の回りのことを自分でできるかどうかは、年をとってみないとわかりません。将来に備えて、信頼できる人に前もってお願いしておくことができれば安心だといえます。
(2)民法だけでは不十分
ところで、契約などの事務処理を誰かに任せる、という方法には、民法の「委任」契約があります。
しかし、判断能力が低下して、契約をするための要件である「意思能力」を欠く状態にまでなってしまうと、そもそも委任契約を有効に行うことができなくなります。
また、委任契約を有効に結ぶことができたとしても、委任契約をして誰かに財産をまかせたときには、その財産を相手がむやみに使ってしまわないように、自分自身でチェックする必要があります。しかし、自分の判断能力が低下してしまうと、財産管理の適正さをチェックできなくなってしまう不安があります。
(3)法定後見制度
他方、法定後見制度では、裁判所が後見人を選任しますし、どのような生活や療養監護の仕方がいいか、何を優先した財産管理をするのかについて、後見人にうまく自分の希望を伝えられないかもしれません。
(4)自己決定権の尊重の理念から
そこで、1 まだ判断能力が十分に備わっているうちに、2 後見人となる人(任意後見受任者)を自分で選ぶことができる、3 任せる事務処理の範囲や方法を自分で決めることができる、そして、4 裁判所により「任意後見監督人」が必ず選ばれるという特別な委任契約の制度が作られました。それが任意後見契約制度です。
この制度は、判断能力の低下した人自身の自己決定権を尊重するという理念をストレートに表したものといえます。手続や内容は、「任意後見契約に関する法律」という法律で定められ、平成12年から利用できるようになっています。
2 任意後見制度の手続
(1)任意後見契約の締結
任意後見制度は、任意後見契約に基づいて、後見人に本人の生活に関する代理権を付与する制度です。この任意後見契約は、本人と任意後見受任者との間で結ぶのですが、本当に本人の意思に基づいているのかどうかを公証人にチェックさせるため、公正証書によって契約することが必要とされています。
任意後見契約の中で定める委任事項は、精神上の障害により本人の判断能力が低下した時から死亡するまでの本人に関する生活、療養監護及び財産管理に関する法律行為です。例えば、不動産の管理・処分、預貯金の管理、年金などの定期的な収入を受領し、あるいは家賃や公共料金などの支払を行うこと、登記済権利証や実印などの重要書類を保管すること、などが考えられます。この契約は、法務局で登記されます。
(2)任意後見監督人の選任申立て
任意後見契約の効力が発生するのは、本人の判断能力が不十分な状態となって、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任された時からです。
任意後見監督人の選任申立ては、本人・親族・任意後見受任者が行うことができます。本人以外の人が申立てをする場合であっても、本人の意思を尊重するという観点から、申立ての内容に対する本人の同意を確認することが必要とされています。
この申立てによって任意後見監督人が選任されると、任意後見受任者として登記された人が、本人の任意後見人としての職務を行えるようになります。
(続く)
2013 /1/29
弁護士 矢崎暁子
(ホウネットメールマガジンより転載)