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中小企業の事業承継を円滑に進めるために1

2008年11月13日

中小企業の事業承継を円滑に進めるために1

 この記事は、11月6日に行った「暮らしと法律を結ぶホウネット」の表題の学習会での私のレクチャーの骨子をまとめたものです(時間が足りず割愛した部分もあります)。

1 今、なぜ、中小企業の事業承継が話題になるのでしょうか。

 (1) 経営者の高齢化が進んでいます。
中小企業経営者の平均年齢は57歳,20年間で約5歳上昇しています(帝国データバンクの調査〉。予想引退平均年齢は67歳とされ、後継者を決める時期は60歳前後が多いと言われており、世代交代が進時期を迎えています。

 (2) 後継者確保の困難生が指摘されています。
中小企業の経営環境が悪化し、また産業構造の変化などもあり、経営者の子供が承継する割合は20年前の約半分になりました。後継者が既に決定している企業は全体の約43%に過ぎないと言われています。

 (3)事業承継対策は、元来、どうしても後手にまわる要素があります。
自己の引退や死亡を前提とする対策は後回しになりがちですし、周囲も言い出しにくいでしょう。
現状では、年間廃業社数約29万社のうち約7万社(24%)が後継者がいないために事業承継できないと推定されています。

2 なぜ、中小企業の事業承継の対策が必要なのでしょうか。

 それは、適切な準備が行われていない場合、どのような問題が生じるかを理解する必要があります。

 1 お家騒動の危険性
中小企業の経営者については、推定相続財産の約7割が事業用資産と言われています。
日本の民法では、相続は均分相続が原則です。
生前贈与や遺言等で事業用資産の後継者への集中が行われていない場合には、後継者以外の相続人との間で遺産分割に関する円滑な合意が成立しない場合、自社株や事業用資産が相続人の共有財産となってしまいます。経営権の争いが生じたり、会社の運営が不安定となり、取引先への信用失墜を招くことにもなりかねません。

 遺産共有はどんな問題を発生させるのでしょうか。
相続開始と同時に、被相続人(前社長)の金銭債権は、相続分に応じて各相続人に帰属します。その結果、中小企業の決算書類を見ると、社長が会社に資金を貸し付けている場合が多いようです(貸借対照表の長期債務の欄を御覧ください)。その大半は、貸金とは言っても、「あるとき払いの催促なし」であり、返済が予定されていない、事実上の自己資本、「もとで」というべきものと考えられています。
ところが、相続人に承継され、後継者以外の会社に返還を請求すれば、会社は返還に応じなければなりません。債務が現実化する訳です。

 中小企業では、社長名義の預金が運転資金に使われたり、担保に入っていたりします。
相続によって各相続人は相続開始と同時に法定相続分に応じて預金債権を取得するとされていますから、相続人が払戻請求すれば銀行は応じざるを得ません。運転資金の流出を招くこともあるでしょう。

 中小企業では、工場や事務所等の事業用不動産が、社長の個人所有になっている場合が多いのですが、共有になると、分割請求がなされたり(共有物の分割について持分権者の協議が整わない場合には、裁判所が強制的に分割します)。第三者への処分の危険性もないとう言えません。
自社株式の分散は、企業経営に極めて大きな影響を与えます。
相続人の数が多く、後継者以外の相続人が過半数の相続分を有する場合には、後継者以外の相続人が会社の意思決定に支配力を有することにもなりかねません。

 2 相続税の負担の心配
中小企業庁のアンケートによると、5000万円以上の納税額が予想される人が18%。物納または売却を予定している人が18%いると言われています。
相続税については、基礎控除の引き上げ等も税制改革の中で検討課題に上がっており、相続税の引き上げが取りざたされています。

 3 遺産分割協議の結果、後継者以外の相続人の協力が最終的に得られ、自社株などが後継者に承継されることになった場合でも、それまでに相当の時間的ロスが生じます。
遺産分割は全員が署名捺印した遺産分割協議書で行われるが、分割協議に手間取った場合には、社長名義の預金からの払い戻しができなくなったり、代表者の変更登記ができなかったり、追加融資を受けるため社長名義の敷地を担保に入れようにも名義変更ができなと担保設定ができないといった支障が生じます。

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