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高齢者・障がい者をサポートする制度(2)成年後見制度の概要

2013年01月09日

1 成年後見制度の概要

 前回、成年後見制度は、判断能力の低下した人の自己決定権を尊重しながら支援する制度だ、ということをお話ししました。

 以下では、成年後見制度の概要についてお話しします。少し長くなってしまいました。

2 成年後見制度の種類

 成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度と、大きく2つに分けることがで きます。どちらも、精神的な障がいにより判断能力が低下している場合にのみ利用できる制度です。

 例えば、認知症、脳梗塞や事故による脳機能障害、知的障がいや精神障がいなどによって判断能力が不十分になった場合には、成年後見制度を利用することができます。他方、たとえ一人での財産の管理や処分が難しいとしても、それが身体的な障がいが理由である場合には、成年後見制度を利用することはできません。

(1)法定後見制度

 法定後見制度とは、精神上の障害により判断能力が不十分となった場合に、家庭裁判所の審判(裁判の一種です)により、後見人等を選任する制度です。

(2)任意後見制度

 任意後見制度とは、判断能力が十分にあるうちに、将来に備えて、信頼できる誰かと「任意後見契約」を結び、判断能力が不十分な状況になった場合に、その人が任意後見人となって財産管理等の処理をすることを委任する、という制度です。

 今回は、法定後見制度について説明をしていきます。

3 法定後見制度の3類型

 法定後見制度では、本人の判断能力の程度に応じて3つの類型が設けられています。本人の財産管理権を過剰に制約しないため、このような分類をして成年後見人等の権限内容に差を設けています。

(1)後見

 後見は、「精神上の障がいにより事理を弁識する能力を欠く常況にある」場合に利用できる制度です。これはつまり、判断能力を欠いている時間が生活の大部分を占めている状態のことをいいます。

 例えば、家族の名前や自分の生年月日、今いる場所がどこか、などがわからなくなっている方が、これにあたります。

 後見類型にあたる場合には、自ら契約をすることもできない状態にあるのが通常です。そのため、成年後見人に全面的な代理権をもたせ、本人のために必要な契約ができるように制度設計がされています。

(2)保佐

 保佐は、「事理弁識能力が著しく不十分な」場合に利用できる制度です。

 特に不動産などの重要な財産の取引について、自分一人では契約の利害得失を十分に判断できない方が、この類型にあたります。

 保佐類型にあたるのは、ある程度判断能力がある、という方です。ただ、一定の重要な取引類型については保佐人が同意権・取消権をもつことにより、本人に不利益な契約を取り消すことができるようになっています。

(3)補助

 補助は、「事理弁識能力が不十分な」場合に利用できる制度です。

 例えば、普段は仕事や家事を問題なくできるが、たまに失敗してしまう、また訪問販売のセールスに弱く、必要もないのに高額な商品を買ってしまう、など、一人で契約の利害得失を判断することに不安がある、という方がこの類型にあたります。

 補助類型にあたるのは、特定の重要な取引については誰かのサポートがあった方がいいが、普段の生活は一人でできる、という方です。そのため、不動産売買など特定の取引類型についてだけ補助人に同意権・取引権をもたせる、という選択ができます。

 以上、3つの類型について説明しましたが、実際のところ、どの類型に当たるか、

 特に保佐と補助の違いという判断はとても微妙です。そのため、まずは病院で診断してもらいましょう。

4 法定後見制度の効果

 法定後見制度を利用すると、具体的にはどうなるのでしょうか。家庭裁判所での手続は次回みることにして、まずは審判が出た後の効果についてみていきます。

(1)後見

 まず、財産に関する法律行為や訴訟行為について、成年後見人が全面的に代理権をもちます。

 また、本人のした契約などの法律行為については、日常生活に関する行為を除き、成年後見人が取消権をもちます。

 上で書いたように、後見の類型にあたる方は、一人で契約をすることができない状態にあるのが通常です。そのため、成年後見人が本人に代わって必要な契約をできるようになっています。また、本人が契約をすることもできますが、その契約が本人にとって不利益なものである場合には、成年後見人が取り消すことができるようになっています。

 もっとも、結婚や離婚、遺言など、身分行為といわれる行為については、成年後見人が代理をしたり取り消したりすることはできません。これらの行為は、性質上本人自身が決めるべきもので、他人が口出しすべきではありませんから、成年後見が開始しても、本人が一人で有効に行うことができます。

 日常生活に関する行為とは、食べ物や洋服を購入するなどの行為が典型的です。こうした行為も、本人が一人で有効に行うことができます。

(2)保佐

 保佐の場合は、一定の重要な取引を本人が行う場合には保佐人の同意がなければならない、ということになります。もっとも、保佐人が同意しないときには、家庭裁判所で「同意に代わる許可」を得ることができます。

 同意が必要とされている行為としては、例えば、お金の借り入れ、保証人になること、不動産の売買、遺産分割、訴訟行為、不動産の改築などが挙げられています。

 こうした同意の必要とされる行為について、同意のないまま本人が行った場合には、保佐人が取り消すことができます。本人は、ある程度判断能力はあるのですが、重要な契約等のメリット・デメリットを十分に判断することができない状態にあるため、本人にとって不利益な場合には保佐人が取り消すことで、本人の利益を適切に守ることとしているのです。もちろん、本人自身が取り消すこともできます。

 保佐にあたる方は自分で契約をすることができるため、基本的には保佐人に代理権は必要ありません。もっとも、特定の法律行為については保佐人が代理できるようにしたい、というときには、家庭裁判所の審判によって保佐人に代理権を与えることもできます。

 本人以外の人が代理権の付与を求めた場合には、本人がこれに同意しなければ、保佐人に代理権が付与されることはありません。これは、自己決定の尊重のためです。

 身分行為や日常に関する行為については、後見の場合と同じです。

(3)補助

 補助の場合も、基本的には本人が判断できるのが前提です。そのため、本人の判断に不安のある特定の財産的な法律行為についてのみ、家庭裁判所の審判により補助人に同意権を与えることができます。

 同意の必要な行為について補助人の同意のないまま本人が行った場合には、本人と補助人はこれを取り消すことができます。補助人がついているからといって本人との取引がすべて取り消される可能性がある、というわけではありません。補助人の同意が必要とされている行為以外は、本人がすべて一人で有効に行うことができます。

 特定の法律行為について補助人に代理権を与えることができるのは、保佐の場合と同じです。

 本人以外が代理権をつけるよう申し立てたときに、本人の同意がない限り補助人に代理権は付与されない、というのも保佐の場合と同じです。

 身分行為や日常に関する行為については、後見・保佐の場合と同じです。

5 まとめ

 判断能力の低下の度合いは、実際には3つだけに分類できるものではありません。また、判断能力が残っていればいるほど、悪質な訪問販売などの被害にあう可能性は、かえって高いともいえます。

 本人の意思を尊重し、本人にとって最も望ましい形で本人の利益を守れるよう、同意権や代理権についても、本人と相談しながら、適切に使っていくことが必要といえます。

2012/12/27
弁護士 矢崎暁子
(ホウネットメールマガジンより転載)

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