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高齢者・障がい者をサポートする制度(1)成年後見制度について

2012年12月13日

成年後見制度について

(1) 成年後見制度とは

 成年後見制度とは、判断能力の低下した人が、必要な契約を有効に結べるように、あるいは不当な契約によって財産を奪われてしまわないように するため、家庭裁判所の審判によりその人の「後見人」等を選任し、財産管理や身上監護を行う制度のことをいいます。

 これは民法に定められているのですが、どうしてこの制度があるのでしょうか?

(2) 契約に必要な「意思能力」

 私たちは、普段、食べ物や服を買ったり、家を借りたり、サービスを利用したり、といった様々な契約を結びながら生活しています。私たちの生活に は、契約が不可欠といっていいでしょう。

 ところで、契約をするためには、民法上、「意思能力」が必要とされており、意思能力のない状態でした契約は無効と考えられています。意思能力は、 「事理を弁識する能力」(民法7条)と定義されています。要するに、自分がする契約の意味をわかる判断能力のことをいいます。

 先ほど述べたように、私たちの日常の生活には契約が必要不可欠となっています。そのため、認知症や知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が低下していても、様々な場面で契約をする必要が生じてきます。契約をする場面では、他方で、不要な契約によってトラブルに巻き込まれる危険も生じます。

(3) 契約をめぐる困った事態

 例えば、認知症になり判断能力が低下したときのことを考えてみましょう。

 【ケース1】そのとき、介護施設に入所するにはどうしたらいいでしょうか?

軽度であれば、自分で介護施設と入所契約を結ぶことができます。しかし、判断能力が低下して、意思能力があるかどう か微妙だという場合には、契約を結んでもそれが有効かどうか疑わしくなってしまいます。そうすると、介護施設から入所契約を断られるおそれが出てき ます。

 【ケース2】他方、誰かの口車に乗せられて土地を売る契約をしてしまったら、どうなるでしょうか?認知症と診断されていれば、その契約は無効だと主張できるでしょうか?

 たとえ認知症であっても、判断能力がある程度残っている場合には、契約は 有効に成立します。しかも、もし実際には判断能力のない状態で契約をしたのだとしても、それを証明しない限りは、有効と扱われてしまいます。

 このように、判断能力が低下してくると、そこにつけ込んでくる人たちから財産を守ることも必要になってきます。

(4) 成年後見制度の趣旨

 こうした事態に対処できるのが、成年後見制度です。

成年後見制度を利用して、「後見人」等をつければ、判断能力がほとんど失われてしまった人もスムーズに介護施設への入所契約や介護サービスの利 用契約を結ぶことができます。

 また、成年後見制度で「後見人」等をつければ、土地の売買や高額な借り入れなど、生活に重大な影響を与える契約について、後から取り消すことができます。

 判断能力の低下した人が、自分の生活にとって必要な物やサービスを手に入れたり、不要なトラブルに巻き込まれるのを防いだりする、というために 作られているのが成年後見制度です。

(5) 従来の制度との違い

 2000年に成年後見制度ができるまでは、判断能力を欠く人を保護する制度として「禁治産」制度が存在していました。ただ、財産が「家」のものであった時代に作られたため、禁治産制度は、判断能力を欠く、あるいは著しく不十分な人について、財産を治める(管理する)ことを禁止する、つまり契約行為を制限することで「家」の財産をむやみに減らさないようにする、という観点から作ら れていたといえます。そういう発想から、妻や視覚障がい者、聴覚障がい者などまで「準禁治産者」として契約行為を制限されていたこともありました。今では考えられませんね。

 禁治産制度に対しては、個人の自己決定という視点が不十分だ、禁治産宣告を受けたことが戸籍に載せられてしまうため差別を助長する、軽度の認知症の人が保護されない、などの批判がなされていました。

 こうした批判に応えるために民法が改正され、現在の成年後見制度ができたという経緯があります。したがって、成年後見制度は、本人の自己決定権を尊重するということを制度の重要な柱にしているのです。

2012/12/3
弁護士 矢崎暁子
(ホウネットメールマガジンより転載)

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