子どもを巡る法律問題〜(4)子の引き渡しについて
子の引き渡しについて
1 「子の引渡し」が問題となる場面
子どものいる夫婦が別居したり、あるいは離婚して離れて暮らすようになったりしたとき、子どもと離れて暮らす親が子どもを連れ去ってしまうことがあります。こうしたケースには、(1)別居中の夫婦間で、一方が子を連れ去った場合と、(2)離婚後、元夫婦の一方が子を連れ去った場合とが考えられます。
2 「子の引渡し」を求める方法
(1)(2)のいずれの場合も、監護権者である親は、家庭裁判所の手続(調停、審判)を用いて、子どもを自分に引き渡すように求めることができます。?
これに加え、婚姻中で離婚を考えている場合には、離婚訴訟を起こすとともに子の引渡しを求めることもできます。人身保護法に基づいて子どもの保護を請求する、という方法もありますが、この手続は、近年ではほとんどが両親が離婚した後のケースでしか使われません。
3 「子の引渡し」を認める判断基準
もっとも、「子の引渡し」は、引き渡される子どもにとっては、現在一緒に暮らしている親と離れなければならなくなり、住んでいる場所からも転居しなければならない、などの不利益が伴います。
ですから、子の引渡請求の判断にとっては、子どもの現在の状況や将来を考慮し、子ども自身の幸せに反しないように、という観点が重要です。
したがって、(1)子ども自身の意思を尊重することが大切です。ただ、子どもの意見だけで結論を出そうとすると、子どもに親の選択を迫ることになり、かえって子どもを苦しめかねません。そのため、様々な事情を考慮して判断することになっています。
また、(2)子どもの成育環境の安定性という観点があります。例えば、子どもがずっと通っている学校を転校しなければならなくなったり、兄弟が別々に暮らすことになるというのは、子どもの幸せにとっては基本的には望ましくない、と考えられています。?
さらに、(3)乳幼児であれば原則として母親と一緒に暮らした方がいい、と言われています。もっとも、子どもに対する「母親」としての役割は、必ずしも性別上の母親しか担えないものではないため、常に母親を優先させることには批判の余地があります。
他にも、(4)監護者としての適格性という観点から、父母の経済力、健康状態、居住環境などの事情も考慮されます。
こうした様々な事情を考慮して、引渡を認めるべきかどうかが判断されることになります。
なお、あくまでも子どもの幸せにとってどうか、という観点からの判断がなされます。
したがって、例えば、母親の不倫が原因で離婚に至った、という事情があるとしても、子の引渡請求では基本的には考慮されません。ただし、不倫に没頭するあまり育児を放棄していた、という場合は別でしょう。
4 「引渡し」を実現するには
以上のような考慮を経て、子を引渡せ、という結論が出た場合、子どもを現実に取り戻すにはどのようにすればよいでしょうか。もう一方の親が子どもを引き渡してくれれば何の問題もありませんが、頑なに拒んでいる場合には、難しい問題です。?
例えば、「引き渡すまで1日当たり○○円支払え」というように、金銭支払の圧力をかけて引渡しを求めるという方法があります(間接強制)。
これに加えて、執行官が子どもを直接取り返す、という方法(直接強制)ができるか、については、子どもを「物」と同じように扱うべきではない、という観点から反対意見もあります。しかし実務上は、現在のところ、直接強制もできるとされてい
ます。
ただし、直接強制を認めるとしても、それまで一緒に暮らしていた親と無理やり引き離すのは、子どもに大きな恐怖や精神的ショックを与えるおそれがあります。
そのため、子どもの心情に対する十分な配慮が必要です。乳幼児が寝ているときにもう一方の親が抱きかかえて連れて帰る、という方法であれば、ショックが少なくすむかもしれません。他方、ある程度大きくなった子どもには、事情を説明した上で親が手を引いて連れて行く方がいいかもしれません。いずれにしても、それぞれの子どもに応じた方法を考える必要があります。
2012/9/28
弁護士 矢崎暁子
(ホウネットメールマガジンより転載)
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連載「子どもを巡る法律問題〜(1)親権」の記事は↓↓↓
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「子どもを巡る法律問題〜(3)養育費」の記事は↓↓↓