気持ちはわかる!〜身近な判例紹介〜第5回
気持ちはわかる!〜身近な判例紹介〜
第5回 花火を期待してがっかりのマンション購入者さん
長らく休載しておりましたが、ごく一部の方の熱いご要望にお応えして戻ってまいりました。これからもできるだけ更新を続けますのでよろしくお願いします。
さて、暦の上では秋ですが、毎日暑い日が続きますね。今回は、夏の風物詩である花火にまつわるお話です。
【あらすじ】
Xさん夫婦は、Y社から新築の分譲マンションを約3300万円で購入しました。13階建の6階で、部屋からは隅田川の花火大会がよく見えます。Xさんはこれを気に入り、「取引先との接待にも使える」と考え、購入を決めました。
ところが、その約1年後に、Y社が付近に同じくらいの高さのマンションを建築したため、買ってから2年もしないうちに、Xさんの部屋から花火大会を見ることはできなくなってしまいました。
花火を期待して買ったのに・・・。納得のいかないXさん夫婦は、Y社に対し、被った財産的損害(価値の下落分5%)の賠償と慰謝料の請求をしました。
【裁判の結果】
Xさん夫婦の請求に対し、裁判所は、慰謝料60万円を認めました。
その理由として裁判所は、Y社がXさんの購入の動機を知っていたこと、部屋から花火を鑑賞できることには少なくない価値があることからすれば、Y社は「居室からの花火の観望を妨げないよう配慮すべき信義則上の義務」を負っていたとし、付近にマンションを建築したことでこの義務に違反したY社には、不法行為が成立すると述べています。
もっとも、花火が見えることを理由に特別な価格設定がされたとは認められない等から、財産的な損害については否定されました。
また、慰謝料の金額については、Y社が購入後1年も経たず工事に着手していることや、説明会において誠意を尽くす対応をしていないこと、他方で、仮にY社でなくとも誰かが付近にマンションを建築して花火が見られなくなることはあり得ることなどが考慮されています。
【一言】
私も花火は好きですが、大勢の人が集まる所が苦手なので、自分の部屋から見ることができたらいいなと常々思っています。なので、今回のXさんには同情を禁じ得ません。
部屋からの眺め(眺望)というのは、時間の経過とともに当然移りゆくものですから、絶対的に保護されるというものではありません。ですが、売主との間に特別な事情があれば、買主の信頼を保護するために法律が手助けしてくれることもあります。今回の事例は、そのような一例として参考になるものです。
弁護士 鈴木哲郎
今回の裁判の詳細は、以下のページに掲載されています。
http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200902_1.html