高齢者と財産管理契約
高齢者と財産管理契約
名古屋北法律事務所は、成年後見人選任の申し立てや、成年後見人としての業務を多数行っております。当ページでは、あまり情報発信をしてきませんでしたが、実例紹介や役に立ちそうな情報などがありましたら、今後掲載していきたいと思っています。
さて、今回は、成年後見ではありませんが、「財産管理契約」のお話をさせていただきます。
(以下は、ある情報媒体に掲載させていただいた記事をそのまま転載するものです)
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・・・(前略)弁護士の仕事は起こってしまった争いの処理だけではありません。争いへの備えとして弁護士を活用されるなら、心配の多い毎日でも「ほっと一安心」を手に入れることができるかもしれません。
〇財産管理契約が守るもの
前回までは、相続問題をお話ししてきました。しかし、高齢化社会にあっては、相続までが長いという現実があります。いずれ必ず来るその日まで、自分の財産を守ることができるか、判断能力や健康が衰えてきたときにも自分の思う通りに財産を使うことができるかなど、心配は尽きません。認知症など医師による精神上の障害が認められる場合には、後見人をつけることもできますが(成年後見制度)、そこまでの状況でない場合、どのような方法があるでしょうか。そんな場合に活躍するのが「財産管理契約」です。
〇財産管理契約とは?
財産管理委任契約とは、自分の財産の管理や、生活上の事務の全部または一部を、代理権を与える人を選んで、委任するものです。家庭裁判所が関与する後見と違って、当事者間の約束のみで効力が生じ、管理させる財産の範囲や管理の方法も自由に定めることができます。物忘れが始まったと感じた段階や、入院するなどの理由で重要な財産をすぐに信頼できる管理者に任せたい場合、死後の事務処理を依頼したい場合などに利用されます。
〇ある一人暮らしの女性の場合
ある女性のケースを紹介します。彼女は、早くに夫を亡くし、子どもはなく、持ち家で一人暮らしをしていました。78歳ながら、マイカーを運転してどこにでも出掛ける元気印の女性でした。しかし、他の検査から末期癌が見つかり、突然の手術、入院を余儀なくされます。入院や介護契約を助けてくれる親戚もなく、途方に暮れていたところ、紹介を受けて法律事務所に来られ、財産管理契約を結ぶことになりました。契約内容には「身上監護(しんじょうかんご)」も盛り込んだため、重要な財産を預かって管理することはもちろん、手術や治療方針の説明への立会いや、退院後に自宅で過ごすための介護用ベッドやデイケアサービスの契約なども弁護士がさせていただきました。
癌の進行が予想外に早く、財産管理契約から半年足らずで彼女は亡くなりました。しかし、病院にお訪ねするたび、家のことを心配しないで過ごせてよかった、と感謝の言葉をかけていただき、弁護士として彼女に出会えてよかったと感じさせられる日々でした。死後の事務も依頼されていたため、御葬儀にはリストアップされたご友人に集まっていただき、特に親しかった方と「散骨の旅」に出ることに決まりました。ご家族の思い出の土地での散骨が彼女の希望だったのです(実際には散骨は禁止されていますから、彼女を連れていってあげるしかできないのですが)。最後の旅路が親友とともにあることを、天国の彼女も喜んでおられることと思います。
このように、高齢期を尊厳を持って、自分らしく過ごすための一つの手段として、財産管理契約は活用することができます。是非その存在を知っておいてください。
2012/3/21
弁護士 裵明玉
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