交通事故(6)〜過失相殺
前回までは、交通事故の被害者がどのような損害について賠償請求できるかを見てきました。交通事故に関する連載の最後は、損害賠償額の減額事由である過失相殺についてです。
1 過失相殺とは
交通事故には、加害者の脇見運転による追突のように、加害者に全面的に非があるものと、加害者と被害者の双方の不注意が重なって事故が起こるものとがあります。過失相殺とは、後者の事故で、損害賠償額を算定するときに、被害者側の過失の割合に応じて、その賠償額を減少させることを言います。損害の公平な分担を図る趣旨から、民法で定められています。交通事故で過失とされるのは、道路交通法違反の行動や、事故を起こさないために守るべき社会常識への違反などです。
2 過失相殺の基準化
過失相殺をどの程度認めるかは、裁判所の裁量に任されていますが、まったく基準がないと、裁判官毎に判断がバラバラになったり、
審理に時間が掛かりすぎるという問題が起きますから、客観的な基準作りが進められてきました。
現在の裁判実務では、「民事交通訴訟における過失相殺等の認定基準」(東京地裁民事交通訴訟研究会)を参考にして判断されています。この認定基準は、別冊判例タイムズにまとめられて出版されています。もっとも、これはあくまでも典型的な事故のまとめであり、どんな事故にも典型からはみ出す部分はあります。ですから具体的な過失割合は専門家に相談されることをお勧めします。
3 対象となるのは「誰」の過失か
たとえば、親と散歩をしていた2歳の幼児が車道に飛び出て事故が起こった場合、過失相殺はできるでしょうか。過失相殺は、公平に責任を分担するための制度ですから、そもそも責任を負わせるのが適当でない者、すなわち自分の行動の結果を予測して安全に行動することのできない幼児などについては、過失を認めることはできないとされています。
しかし、これでは結果として加害者が過大な賠償義務を負うことになり、不公平だという考えが当然出てきます。そこで、現在では、被害者自身の過失を問えなくても、「被害者側」に過失がある場合、過失相殺ができると考えられています。
もっとも、被害者と行動していれば誰でも被害者側とされるわけではなく、被害者と「身分上」または「生活関係上」一体をなすと見られるような関係にある者という限定があります。
過去の判例を見ると、親、配偶者、兄弟、祖父母、家事使用人などについて過失相殺を認めたものがあり、短時間子守を頼まれただけの知人や保育園の保母、小学校教師などについては、否定されたものがあります。
2011/12/27
弁護士 裵明玉
(ホウネットメールマガジンより転載)
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(連載の他の記事は下記のとおりです)
交通事故(1)〜請求の相手方、損害の種類(概要)
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