交通事故(5)〜逸失利益
今回のテーマである逸失利益は、休業損害(第4回)などとともに人身損害における財産的損害のうちの「消極損害」、すなわち「被害者が事故に遭わなければ得られたであろうと考えられる利益」のひとつです。
そして逸失利益として損害賠償の対象となるのは、死亡した場合もしくは後遺障害(第3回)が残った場合に、死亡日ないし症状固定日(18歳未満の未就労者は原則18歳)以降の「事故がなければ得られたであろう給与・収入等」です。
後遺障害逸失利益の計算方法は第3回で説明したとおりで、原則的には、(1)被害者の基礎収入に、(2)労働能力喪失率と(3)労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて算出します。
死亡逸失利益の場合は、100%労働能力を喪失しますので、労働能力喪失率は問題になりませんが、亡くなった方には食費等の生活費がかからなくなることから、その分を差し引くことが公平だと考えられていて、実務上、(1)被害者の基礎収入に、(2)(1−生活費控除率)と(3)労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を乗じて計算する方法が定着しています。
生活費控除率は、実務上、一家の支柱(稼頭)で一人扶養していれば40%、2人以上扶養していれば30%、独身男性は50%、主婦や独身女性は30%などといった基準があります。
ではここで、年収500万円、50才で妻子を扶養していた会社員男性が、交通事故で死亡したケースの死亡逸失利益を計算してみましょう。
(1)被害者の基礎収入は500万円です。
(2)生活費控除率は、一家の支柱(稼頭)で2人以上扶養していますので、一般的には(1−0.3)です。
(3)労働能力喪失期間を考える場合、67才までを労働できる期間と考えますので労働能力喪失期間は67−50=17年、これに対応するライプニッツ係数は計数表によれば、11.2741です。
(4)よって、逸失利益の計算式は、【500万円×(1−0.3)×11.2741】
答えは、金3945万9350円となります。
ところで逸失利益は将来にわたる収入が問題になっており、金額が大きい反面、予測に基づく不確定なものでもあるため、保険会社との交渉や訴訟などでも、よく争われるところです。
たとえば、基礎収入の算定は、休業損害(第4回)と同じで、原則として実際の収入を元に計算しますが、実際の収入で計算することが合理的でない場合には、賃金センサス(厚生労働省が発表している勤労者の平均賃金統計の数値)を参考にして、基礎収入を決める場合もあります。事業者や芸能人、フリーターなどで収入が不安定な場合や、主婦、学生、無職者、障害者の場合など、個別の事情(しかも将来の)をどこまで反映させるかは難しい問題です。
死亡逸失利益の場合は、生活費控除率の妥当性についても問題になります。後遺症逸失利益では、労働能力喪失率は後遺障害の等級によって決まり、等級が1つ違えば逸失利益に大きな差がつきます。したがって、被害者側とすれば、きちんと後遺障害の認定をしてもらうことが重要になります。労働能力喪失期間が問題となるケースもあります。
2011/11/24
弁護士 山内益恵
(ホウネットメールマガジンより転載)
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(連載の他の記事は下記のとおりです)
交通事故(1)〜請求の相手方、損害の種類(概要)
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