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中小企業と交通事故(3)

2011年02月18日

 前回、社員が業務中に交通事故を起こした場合の会社の損害賠償責任について、民法の使用者責任(715条)、自動車の運行供用者責任(自動車損害賠償保障法)について説明しましたが、それ以外にも様々な問題があります。

 従業員の事故について会社が被害者に損害賠償金を支払った場合、同賠償金を従業員に対して求償(請求)できるかという問題があります。
民法715条3項は、この場合「使用者が被用者に求償できる」と定めています。
社員が任意保険に加入している場合には問題になりませんが、そうでない場合に深刻な問題となります。
タクシー会社や運送会社では、保険料負担を嫌って任意保険に加入しないケースが増えており、こうした会社では、ドライバーが事故を起こし会社が賠償した場合に社員に対する求償を行うケースがあります。
この点について裁判所は、無条件に求償は認めないという立場を採用しています。

 715条に関する判例を見ると、
「事業の性格、規模、業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様(過失の重大さ)、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度等の諸般の事情を考慮し」
「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」求償できるという考え方が主流です。
裁判所が無条件に求償を認めないのは、会社は人を雇用して経営規模を拡張して利益を上げているのに、損害が生じた場合だけ求償を全面的に認めるのは、公平の原則に合致しないという配慮と言われています。

 具体的にはケースバイケースですが、社員に飲酒運転等の重大な過失がない場合には、全額の求償はできないと見ておくべきです。
実は、この問題は、交通事故の被害者に対する賠償責任の問題に限定されません。
製造メーカーの社員が作業中に居眠りした間に工作機械が誤作動を起こして機械や製品が破損する等の損害が生じたり、運送会社のドライバーが荷物を落下させたり居眠りしたりして事故を起こした場合等に、
会社と社員の間で係争になる場合が少なくありません。

2011/2/15
弁護士 長谷川 一裕
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)

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