中小企業と交通事故の深い関係(1)
「―会社経営者の交通事故―」
運送会社でない会社でも事業に自動車の使用は不可欠です。
自動車の使用によって交通事故が発生した場合の問題点について、3回に分けてケースごとにワンポイントアドバイスを行います。
今回は、会社経営者が交通事故の被害を受けた場合についてです。
最近、中小企業経営者が交通事故被害に遭遇した事件を取り扱いました。
甲さんは、自動車部品の製造を目的とする中小企業A社の社長さんですが(従業員8名)、追突事故に巻き込まれ首を痛めて2週間程度の治療を受け、保険会社と示談交渉になったところ、「社長には休業損害が認められない」ということで、日額4200円で計算した慰謝料のみを支払うという回答を受け、私のところに相談に見えました。
確かに、中小企業経営者の場合、事故後も社長の役員報酬の減額はなく、手取り収入に変化がないことが多いのです。これは、賃金が労働の対価であり、治療のために労働日数が減少すると「ノーワークノーペイの原則」が適用され賃金カットされるのに対し、役員報酬の場合は、労働時間の拘束もなく、役員としての地位に対する報酬という側面もあるため、報酬がそのまま支払われることがあります。
しかし、甲さんは、社長ではありますが、営業、総務、人事管理、工場での現場管理等の全般を自分で取り仕切り、毎日、会社に出て他の従業員と一緒に仕事をしていました。
弁護士が会社の実態を説明し、交渉した結果、休業損害と慰謝料総額を認めさせることができました。
社長自ら現場に立つような中小企業や零細企業の場合には、役員報酬には、労務の対価としての部分が含まれているとして、一定の休業損害が認められる場合があります。
しばらく前に取り扱ったケースでは(ビルメンテナンスの会社で、社長自身がビルの掃除等の現場労働に従事。従業員約10名)、役員報酬額の7割を労務対価部分として認めさせました。
こうしたケースでは、泣き寝入りせず、会社の実情を示してきちんと交渉して休業損害を認めさせる必要があります。
2010/12/7
弁護士 長谷川一裕
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)
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