労働者の健康と安全(14)
−過労自殺−
前回の過労死に続き、今回は過労自殺についてお話しします。
労災保険法12条の2第1項では、「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない」と定められています。
つまり、労災では、「故意」による災害には保険給付されないのです。したがって、自殺は、自ら死を選ぶという意味で「故意」による死亡ですから、基本的には保険給付の対象となりません。
しかし、うつ病や重度ストレス障害といった、いわゆる精神障害においては、その病態(症状)として「死にたい」という気持ちが出てきてしまいます。この気持ちを「自殺念慮」や「希死念慮」と言います。このように、精神障害の症状として自殺念慮が出現したために死を選んでしまった人を、果たして「故意だから」と簡単に切り捨てることができるでしょうか?
こうした問題意識を受け、行政は、平成11年に、業務上の心理的負荷(ストレス)による精神障害を原因とする自殺について、「過労自殺」として保険給付の対象とするための判断指針を示しました。
この中で、過労自殺と判断するための要件としては、
(a)対象疾病に該当する精神障害(うつ病等)を発病していること、
(b)対象疾病の発病前おおむね6か月間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること、
(c)業務以外の心理的負荷および労働者本人の個体側要因(既往歴など)により当該精神障害を発病したとは認められないこと、
の3点を全て満たすことが要求されています。
なお、過労自殺の場合も、過労死と同様、労働者の遺族は、労災保険を受給するだけでなく、会社に対して損害賠償を請求することができます。
2010/10/25
弁護士 鈴木哲郎
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)
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