中小企業における「取締役の責任」問題(3)
名目的な取締役・監査役の責任と責任限定契約
中小企業、特に従業員も少ない小規模の企業では、取締役の員数を揃えるため親族等に名前を貸してもらい取締役・監査役に登記するということがよくあります。典型的には、社長の妻が監査役、兄弟や両親が取締役といったパターンです。そうした会社では、会社法に基づく取締役会が全く開催されなかったりします(株主総会すら開かれない会社も少なくありませんが)。
問題が起きない場合には良いのですが、幹部従業員に取締役になってもらうケースも少なくありません。しかし名目的な会社役員と言えども、会社法上の責任は免れず、任務懈怠の場合には損害賠償責任を負うことを銘記する必要があります。
取締役の損害賠償責任は、
(1)会社
(2)株主、債権者等の第三者に対する責任
(3)その他の責任
に分類することができますが、例えば、代表取締役が経営権を濫用し、会社の資金を投機的取引で浪費した場合を想定しますと、代表取締役が投機取引に手を出していること、会社資金が投機資金に流用されていることは、帳簿等の会計資料を閲覧したり、取締役会で業務執行状況を審議していれば、当然把握できる事柄であり、その結果、会社が損失を受けた場合には、役員としての損害賠償責任を負います。
それでは、「名前だけでも取締役になってほしい」と言われて断れない場合、責任を限定し、リスクを回避することはできないのでしょうか。
会社法第425条は、取締役の責任について4年間の受領報酬額、監査役について2年間の報酬額を責任額の上限とすることを株主総会で決議すれば、その範囲内に賠償責任を限定することができます。
但し、「故意または重大な過失がない場合」に限り、ということです。先の例では、代表取締役が会社資金で投機取引をやっていることを知っていた場合等には、責任限定の株主総会決議は役に立ちません。くれぐれも気をつけてくださいね。
2010/10/13
弁護士 長谷川一裕
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)