労働者の健康と安全(11)
−通勤災害について−
労災についての連載が続いていますが、今回は通勤災害についてのポイントです。
労災制度の最初にお話ししましたが、業務上の災害の場合には、もともと使用者には補償責任が発生していて、その負担軽減や担保のために保険制度として労災保険があるんですね。ところが、通勤中の災害には、直接は、使用者に責任はありませんが、勤務との関連性が強いということで、昭和48年の法改正により導入されました。
通勤災害の場合に、よく問題になるのは、通勤にあたるかどうかです。
労災保険法では、「通勤とは、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復すること」とされています。但し「労働者が、前項の往復の経路を逸脱し、又は同項の往復を中断した場合」は通勤としないとされていて、逸脱・中断についても、それが「日常生活上必要な行為であって労働省令で定めるやむを得ない事由により行う為の最小限度のものである場合は」逸脱・中断としないと規定されています。
法律は読んでも難しいことが書いてありますね。もう少し事例を交えながら説明したいと思います。
今回は前半部分についてです。ここでは「就業に関し」という点がよく問題になります。業務終了後に組合活動やサークル活動を行った後に帰宅した場合はどうか、出勤時刻より相当に早い時間に出勤した場合はどうか、業務終了後に取引先との付き合いで外食後帰宅した場合はどうか、など多数の事例があります。問題は、就業と帰宅との直接的関連性を失わせる事情があるかどうかで、個別事情により判断するしかありません。業務外活動の時間の長さや場所、その性質などの事情を検討して総合的に判断することになります。
他にも、帰り道に少し寄り道をして他の職場の妻を迎えにいった場合に、「合理的な経路」といえるか、単身赴任者が週末に家族の家へ帰った場合に「自宅」といえるかなど他の要件も問題になることがありますが、長くなるので今回の解説では省略します。次回は、後半部分の通勤からの逸脱や中断について解説します。
2010/9/8
弁護士 加藤悠史
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)