労働者の健康と安全(10)
―業務上の疾病―
このシリーズも10回目を迎えました。今回取り上げるのは、業務災害のうち、特に病気になった場合の問題です。
前回もお話ししましたが、業務災害とは、使用者の支配下において労働の提供を行う労働者の災害で、業務が原因となったものを言います。「業務が原因」でなければならないので、業務外での不摂生がたたって(たまたま)業務中に倒れてしまったとしても、それは業務災害とはいえないのです。
しかし、病気(疾病)の場合は、けがと違って、通常さまざまな要因が絡んで発症するので、「業務が原因となった」かどうかの判断が一般的に困難です。そのため、厚生労働省の通達等により、疾病の種類に応じて、個々に業務災害と認められるための認定基準が定められています。
以下のサイトでは、そうした認定基準がまとめられているようです。
http://joshrc.org/kijun/kijun.htm
では、脳血管疾患や虚血性心疾患により亡くなった労働者が、業務災害(過労死)と認定されるのはどういう場合でしょうか。厚労省の通達によれば
(1)前日から発症直前までの間の極度の緊張や恐怖などの(業務に関連する)異常な出来事
(2)発症前1週間以内という短期間の過重業務
(3)発症前6か月以内という長期間の過重業務
の3つのいずれかにより、労働者が過重な負荷を受けたという要件を満たす必要があります。具体的には、たとえば(3)については、発症前1か月間に100時間以上、または発症前2〜6か月間に月80時間を超える残業があれば、業務と発症との関連性は強いと評価されます。
過労死に当たるとして労災認定するのは労働基準監督署ですが、その判断に不服があれば最終的に裁判所で争うことになります。裁判所は厚労省の通達には拘束されないので、行政の基準では過労死とされない事案でも、裁判所で救済される可能性は残っているといえます。
2010年8月23日
弁護士 鈴木哲郎
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)