中小企業における「取締役の責任」問題(1)
先日の経営塾第3回(2010/7/22)のテーマは「取締役の責任」でした(講師:加藤悠史弁護士)。事例分析を交えつつ、わかりやすく話をしたことが好評でした。
加藤弁護士の講演を受け、「中小企業実務で登場する【取締役の責任】問題」というテーマで何回かに分けてお話しします。
1 取締役の権限と責任について
取締役は、会社の利益に忠実な立場に立って(忠実義務ともいいます)、善良な管理者としての注意義務を果たしながら(善管注意義務ともいいます)、会社の業務執行を行う職責を有しています。取締役が複数選任され、その中から会社を代表して業務執行にあたる代表取締役を選任する場合が通例ですが、その場合には取締役は代表取締役の業務執行を監視する義務も有しています。
取締役がこの注意義務に反し、自己または第三者の利益をはかったり(自己取引、利益相反行為等)、職務を怠ったりした場合には、解任の理由になるだけでなく(取締役は任期中であっても株主総会がいつでも解任できるとされています)、取締役自身が、会社に対して、時には取引先等の第三者に対して、損害賠償という形で責任を問われることがあります。
2 取締役会
最近は、取締役会という機関を持つ中小企業も出てきましたが、これは注意が必要です。
取締役会設置会社では、個々の取締役には業務執行権限はなく、会社の業務執行は代表取締役が行い、取締役会は業務執行に関する「決定」を行い、代表取締役の業務執行を監督する機関です。取締役会が設置された会社では、本来は株主総会の権限事項とされている「重要な財産の処分又は譲受」、「多額の借財」、支店の設置や支配人等の重要な使用人の選任・解任などは、取締役会が議決することになります。要するに株主総会の権限を大幅に縮小して、取締役会に委ねている訳です。
昨年担当した会社経営権をめぐる事件を紹介します。
同社では、三兄弟が順次代表取締役に就任し、今では末っ子が社長です。三兄弟は株をほぼ均等に持ち、重要なことは株主総会や臨時の話し合いの場で、主要な株主である三名が話し合って方針を決め、それに従い会社を経営してきました。
ところが、意見の食い違いから会社の代表取締役が、独断で工場の土地建物を売却しました。同社は、取締役会設置会社であったため、重要な財産の処分などは株主総会ではなく取締役会が判断できます。工場売却に反対する兄弟2名は、代表取締役の解任、株主総会の招集請求等の法的手段により対応しましたが、機械類や車両等は全て売却されてしまい、従業員も解雇され、事業は閉鎖となってしまいました。根本的には、事業自体が損失を出し続けてきており、経営の存続がピンチであったことは否めない事案でしたが。
この事件では、司法書士に全ての登記手続をまかせており、取締役会設置会社にしたことも司法書士の判断によるものであったたようですが、関係者はその意味を理解していなかったようです。
2010/8/4
弁護士 長谷川一裕
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)