労働者の健康と安全(9)
−業務災害のポイント−
前回は労災の給付についての話でした。業務上の災害でも通勤災害でも同様の給付内容が規定されているのですが、給付が受けられるための要件や問題となるポイントについて業務災害と通勤災害に分けて解説したいと思います。
今回は業務災害についてです。
「業務災害」の『災害』とは、一般的には、使用者の支配下において労働の提供を行う労働者の災害で、業務が原因となったものを言います。労働時間内に、事業場内で、業務に従事している際、機械を操作して怪我をしてしまった場合などは典型的な例です。
労災でのポイントは、過失の有無は問題にならないことです。つまり、機械の操作を誤ってしまった場合に、それが労働者のミスによるものであっても、補償が受けられることになります。その意味で、労働者が、使用者の安全配慮義務違反を理由に民事賠償請求を行う場合とは異なります。この点については、いずれとりあげたいと思います。
ただし、労働者が故意に災害を発生させた場合や、業務中に業務を逸脱する恣意的行為を行っていた場合などは、この要件にあたりません。
さて、問題は、就業場所以外の出張中や休憩時間中などはどうかということです。出張中については、これも使用者の支配下での労務の提供ですので、やはり業務災害にあたります。これが業務というのは、感覚的に分かりやすい話かと思います。では、休憩時間はどうでしょうか。休憩時間中についても、労働者が出社して事業場施設内にいる限り、労働契約に基づき事業主の支配管理下にあると認められます。このような場合にも、業務災害にあたるのです。但し、私的な行為によって発生した災害は当然ながら業務災害にはあたりません。
ところで、業務災害の典型例として怪我をあげましたが、疾病(病気)も業務災害にあたることがあり得ます。例えば、長時間労働を続けていた労働者が心臓疾患でなくなった場合に、過労死として業務災害にあたる場合があります。業務災害にあたるかどうかについて、疾病の場合には、業務と疾病との因果関係が問題になります。次回は、この点について詳しく説明したいと思います。
2010年8月4日
弁護士 加藤悠史
(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)