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人材取引事業(人材バンク)にご用心

2010年05月20日

 人材バンク、職業紹介会社を利用する中小企業が増えています。ハローワークで良い人材が見つからない場合や、人材募集、採用に関するノウハウが乏しい中小企業が即戦力を獲得したいときには、有力な手段となります。

 しかし、民間の人材バンクを利用する場合には、注意が必用です。最近、こんな事例がありました。岐阜県のある老人介護施設を経営する会社(X社とします)がケアマネージャーを求人することになり、大阪に本社を置く人材バンクY社岐阜支店に有資格者の紹介を依頼し、Bさんの紹介を受けました。

 さっそく、X社社長のAさんはBさんと面接し、好印象を受けたので採用したいと考えました。後日、改めて採用条件について面談する日を取り決め、その日の夜、Y社所定の書式による「入社確認書」をFAXしました。ところが、その後、主婦であるBさんは、勤務時間に関する融通が利かず、残業は全くできないことが判明し、不採用となりました。

 A社長は、さっそくY社に採用しない旨を通知しましたが、「時、既に遅し」。人材バンク紹介手数料として、金80万円の請求書が届きました。

 驚いたA社長が契約書をチェックすると、入社に至らない場合でも内定の通知を出した段階で所定の手数料(想定年収の25%相当額)を支払う債務が発生すること、しかも採用内定通知については、実際に内定通知をしていなくてもY社に「入社確認書」の送信をすれば「内定とみなす」との条項が盛り込まれていることが判明しました。

 困ったA社長は名古屋北法律事務所のH弁護士に相談。弁護士は、Y社に内容証明を送付して交渉を開始しました。弁護士は、Y社の社内弁護士(最近は、大企業では弁護士を社員として採用して法務を専属的に行わせるところが増えました)との間で、契約内容についての説明義務が尽くされていないこと、同条項は、「入社確認書」が送付されていれば内定したものと推定するという規定に過ぎず、実際に採用内定していないことが明白に証明される場合には紹介手数料の支払い債務は生じないと解すべきであり、それを超えて一律に紹介手数料を負担させるのは著しく不当な規定であり認められないこと等を説明して、交渉を行い、最終的には、裁判提起の負担などを考慮して金20万円で示談しました。

 この件は、迅速に交渉によって被害を最小限に食い止めましたが、訴訟となった場合には、契約書の条項の文言が重視され、その結果が不利なものとなった可能性があります。

 民間の人材紹介会社を利用するときは、契約書をきちんと確認することはもとより、きちんと採用条件が固まり、実際に入社が決まるまでは入社確認通知を送らないことが大切です。

2010年4月5日
弁護士 長谷川一裕

(ホウネット中小企業メールマガジンより転載)

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