民事裁判における住所、氏名等の秘匿制度
民事訴訟法が改正され、当事者等の住所、氏名等を訴状などに記載しないことなどを可能とする秘匿決定の制度が創設され、令和5年2月20日に施行されました。
この制度は、申立人等の住所、氏名等が他方当事者に知られることによって申立人等が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある場合に、申立人等の申立てにより、裁判所が秘匿決定をするというものです。これにより、例えば、DVの被害者と加害者間の訴訟において、被害者の現在の住所が知られると、被害者の身体等へ更なる加害行為がされるおそれがあるケースで、住所を秘匿して訴訟を提起することなどができることになりました。
秘匿決定がされた場合には、住所、氏名等の代替事項(例えば、「代替住所A」)を記載すれば、真の住所又は氏名等の記載は不要になります。
また、改正前の民事訴訟法では、何人も訴訟記録の閲覧ができ、他方当事者に対して訴訟記録の閲覧を制限することを認める規定はなかったのですが、秘匿事項(住所、氏名等)やその推知事項の閲覧等の制限決定の制度も設けられました。住所等の推知事項としては、受診した近隣の病院名や、子が通う学校名などが考えられます。これにより、例えば、治療に通う病院の診断書を証拠として提出する場合に、裁判所の決定により、相手方当事者にその病院名を秘匿することができることになります。
もっとも、他方当事者は、訴訟において、反論などに実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、裁判所の許可を得て、秘匿事項等の全部又は一部の閲覧等が可能です。
被害者の権利救済のためには、訴訟を提起することが必要な場合も多いです。これらの制度が、被害者の不安を少しでも減らし、その権利救済が図られることが望まれます。
弁護士 篠原宏二(名古屋北法律事務所)
(「名古屋北部民商ニュース」へ寄稿した原稿を転機しています)