時速194キロ運転で人を死亡させても過失?
時速194キロの運転で死亡事故を起こした被告人の刑事裁判で、検察が起訴の罪名を過失運転致死罪から、より法定刑の重い危険運転致死罪に変更したという報道がありました。被害者遺族が2万8000人分の署名を集め、訴因変更を検察に求めたといいます。
危険運転致死傷罪は、悪質な運転で人を死傷させても、「過失運転」だとして軽い刑に執行猶予で済むという実態が批判され、厳罰化を求める世論に応えて2001年に新設されました。「危険運転」とは、飲酒運転、信号無視、運転妨害、運転を制御できない程度での運転といった悪質な運転による事故は、過失ではなく故意と同視できるという考えに基づき、過失の場合に比べてより重い法定刑が規定されています。ところが、これで被害者や遺族が救われるとの期待に反して、危険運転要件の立証のハードルが高く、裁判対策として検察が危険運転を回避し、過失運転で起訴してしまうという問題が指摘されるようになりました。たとえば最近でも、時速157キロで橋の欄干に突っ込み6人を死傷させた加害者が過失運転で起訴され、執行猶予判決が言い渡されています。冒頭の事件では、194キロが運転を制御できない程度の速度に当たるかが問題とされ、検察は危険運転致死罪での起訴を避けたといいいます。これは明らかに私たち市民の一般感覚とかけ離れています。交通事故で命や健康を奪われるという理不尽な状況にあって、被害者や遺族が法律の欠陥によって二次被害を受けるということはあってはなりません。起きてしまった場合に加害者をどのように罰し、被害者をどのように救済していくべきか、私たち皆が真剣に考えていかなければならないと思います。
弁護士 中島万里(名古屋北法律事務所)
(「名古屋北部民商ニュース」へ寄稿した原稿を転機しています)