『家事使用人』の労災適用否定の事案より
労働基準法に定義される労働者が労働の過程でケガなどをした場合、労働災害(労災)と認められれば、労災保険給付を受けることができます。
2015年、1週間ほど利用者宅に泊まりこみ、仕事として介護や家事に従事した女性が心筋梗塞を発症して急死しました。夫はこの女性の死を過重労働によるものと考え労災の申請をしました。
これに対し、労働基準監督署はこの女性は労働基準法の適用対象とはならない「家事使用人」にあたるとして、申請を退けました(おそらく、死亡が業務に起因するかの判断に踏み込んでいないと思われます)。再審査請求までするも結論が変わらなかったことから、夫は裁判所に持ち込んで争ったのですが、2022年10月、東京地方裁判所は労働基準監督署の判断は正しいとの判決を下しました。
「家事使用人」とは、個人の家庭から指示を受けて家事をする者とされており、労働基準法の適用から外されています。もし、この女性が家事代行業者に雇用されており、会社から利用者宅に派遣されている立場であれば、労働者として取り扱われた可能性はあります。しかし、この件では、事業者は利用者家族を紹介・斡旋するに留まり、家事の契約は利用者家庭と女性が直接していたという事実関係をもって、家事使用人にあたると判断されました。
形式的にはそうかもしれませんし、利用者家族も使用者として労災保険料も納めていないものの、簡単に入口で弾かれてしまう結論には、なかなか酷な面があります。法改正によって、家事使用人にも一定の保護が図られることを期待するところです。
なお、家事使用人の論点とは少し異なりますが、労働者保護を骨抜きにするような契約形態にも疑問を感じます。家庭教師で、業者が指定した家庭に行き、教育方法や教材も指定されて一定の指揮監督を受けているものの、訪問先家庭と家庭教師間の委託契約という形にして、労働者ではないとされる例も多くあります。また、最近では宅配業者の下請けが多く、実際には元請業社の指揮命令に従っているものの下請け業者は個人事業主という扱いです。こうした類型ほど労働基準法の対象外という形式論を利用して問題な契約をしていることが多くあります。こうしたものにも立法的に切り込み、保護を図るべきと考えます。
弁護士 新山直行(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)