第3回福祉経営セミナーのご報告
今年、全6回の講座で開講した福祉事業者のための経営セミナーですが、11月2日に第3回講座が実施されました。第3回は「養介護施設における高齢者虐待をなくすために」と題して、名古屋北法律事務所の長谷川一裕弁護士に講演いただきました。高齢者虐待防止法を中心に、高齢者虐待を巡る問題を学びました。
高齢者虐待防止法は、平成18年に施行された新しい法令で、わずか30条の短い条文だけですが、高齢者虐待とは何かを定義し、虐待の早期発見・対応を重視して市町村を虐待防止行政の主たる担い手にするなど、重要な規定を設けています。
法律が制定された背景には、介護者が要介護者を死に至らしめる刑事事件が相次いだことや厚生労働省による虐待に関する実態調査で多くの虐待の実態が明らかになったことにあります。両親などの要介護者を死に至らしめてしまう事件は本当に残念な事件ですが、その背景には、孤立し疲れ果てる介護者の状況や貧困と格差の広がりがあります。そういった意味では、高齢者虐待防止法だけではなく、社会全体でのサポートも不可欠と思われます。
ご承知のとおり、高齢化社会は急速に進行し、高齢化率(65才以上の人口の割合)は2010年で23%、2050年には約40%近くなると予想されています。そのため、第一に高齢者虐待防止法の浸透が重要であることは多言を要しません。
高齢者虐待防止法では、養護者に対する支援や虐待の防止だけでなく、養介護施設・事業者による虐待の防止も定められています。いずれも、虐待を発見した場合にはこれを通報する義務・努力義務が規定されており、その反面、守秘義務が解除されることになります。一方、通報に対応するのは行政の役割となっており、場合によっては地域包括支援センターの職員に立入り・調査権を行使させることもできるとなっています。また、行政は養護者の負担軽減のため、相談、指導及び助言をしなければなりません。
これらの法律の規定を実効的にしていくためには、行政等により、具体的な施策を施していくことと、社会全体でのサポートが必要だろうと実感しました。
もう1点触れておくと、高齢者虐待には、身体的な虐待だけでなく、経済的な虐待も含まれていることです。親が認知症であることをいいことに、親の財産を使い込むなど、表面化していない問題も沢山ありそうです。施設としても、利用者にそういった兆候があった場合に、どうすればよいか悩ましい問題ですよね。高齢者虐待防止法では、経済的虐待の防止のために、成年後見制度の利用促進も定められています。成年後見制度の具体的な中身や活用方法については第5回講座で予定されていますので、ぜひ、ご参加下さい。
弁護士加藤悠史