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事務所だより

日弁連会長選挙と「中日」社説ー法曹人口問題について 豆電球No.46

2008年2月21日

日弁連会長選挙と「中日」社説ー法曹人口問題について

中日新聞(東京新聞)の13日付朝刊社説は、日弁連会長選挙を取り上げた。論旨は、選挙で法曹人口増員が大きな争点になり、司法制度改革の推進を掲げ辛勝した宮崎誠弁護士も選挙中に法曹人口の増員ペース見直しを明言したことを厳しく批判するものである。
私は、中日新聞の日頃からの司法制度改革に関する記事、論説に共感し支持してきた一人である。裁判員制度に関する報道の充実ぶり、市民のための司法改革 を求める一貫した明快な姿勢等は、他紙と比べて、十分、評価できる。前論説委員の飯室勝彦氏も見識ある論評を行ってきた。しかし、今回の社説は、いただけ ない。

私は、法曹人口の大幅な増員と法科大学院の創設を核とする法曹養成制度の改革は、一連の司法制度改革の土台をなすものであり、必要不可欠な改革であると考え続けてきた者の一人である。
90年代末から年間自殺者が増加し、3万人を越え、長期不況の中で多重債務、リストラや事業破綻等の経済的困難等を理由とする自殺も増加したが、この時 代に、もっと弁護士が市民にとって身近な存在であったなら防げた自殺もあったかもしれないと思うと、法曹の一員として、内心忸怩たるおもいを禁じ得ない一 人である。
日弁連は、司法制度改革審議会が発足した前後、この問題で厳しい会内論議を行い、「法曹の質を維持しつつ、国民が必要とする法曹人口を確保する」という会内コンセンサスを形成し、執行部は、その立場から、法曹人口の増員にも積極的に取り組んできた。

社説は、会長選挙で宮崎弁護士が3000人増員の見直しを明言したことを捉え、「国民に対する背信」と酷評している。しかし、宮崎弁護士の3000人見 直し論は、従来の日弁連執行部の改革路線を継承し、それを実現する立場に立ったものであり、この批判は当たらないと考える。
社説は、3000人増員見直しの論調が会内に拡がった背景について、「過剰論は、要するに都会でめぐまれた生活が出来る仕事が減った、ということではな いのか」と言っている。確かに、弁護士の中には、意識的にせよ、無意識的にせよ、弁護士への過度の参入規制による既得の利益やステイタスが失われることへ の不安から人口増に反対する向きもある。
しかし、日弁連と多くの弁護士は、これまでの「小さすぎる司法」「市民に縁遠い司法」による弊害を自覚し、日本の社会の隅々に「法の支配」を行き渡らせ る、透明で公正な社会を作るために努力してきている。社説が指摘する司法過疎地域への弁護士派遣や法テラスだけでなく、要請に応え、弁護士としての自分の 仕事と収入を犠牲にして法科大学院の教官になったり、新人弁護士育成のために事務所を拡張、移転する弁護士も増えてきた。
そうした「改革派」弁護士の中でも、「3000人増員は余りにもピッチが早すぎる」という実感が拡がりつつあることを是非、見ていただきたいと思う。理念だけを先行させて現場の声を無視するようなことをしないで欲しい。
確かに法科大学院は、実務家教員の導入等により実践的な法教育に務め、法曹倫理等の教育にも力を入れており、より良い法曹養成のために寄与をしている。 しかし、一人前の法律家を育てるには、どうしても座学だけでは不十分である。様々な矛盾に苦しむ相談者のカウンセリング、事案の争点を的確に把握し、紛争 解決手段を選択する力、対立当事者との論争能力等は、実務の中で、先輩弁護士の指導を受けながら培う必要があるのである。所謂、「オンザジョブトレーニン グ」である。
ところが、この間の急激な司法試験合格者の増員の中で、このままのペースでは新人弁護士を採用し育てる事務所を確保し続けることが困難であることが明らかになりつつある。
社説は、弁護士の職域拡大の努力の不足を指摘している。確かに、現状に安住する惰性的立場は、市民から批判されるべきだ。しかし、改革は、現存する社会 的資源を活用して実現する外はないのである。今次の司法改革は、ある面では、「外側からの改革」、あるいは「上からの改革」という側面を持っているが、官 僚組織ではない弁護士の業務改革は、説得と納得を通じ、時には経済的なモチベーションも活用しながら段階的に進める外はない。
そして、現に司法試験合格者は年間2000名以上まで大幅に増えている。以前は、年間500名程であったことを考えると、大幅な増員である。合格者増反対を旗印にしている高山俊吉弁護士ですら「1000名〜1500名」を言うような変化が作り出されてきている。
現場の声を余りに無視して急進的な改革を進めようとすれば、改革の軌道が覆される結果を招来しかねない。
宮崎弁護士が法曹人口のペースダウンを明言したのも、改革路線の軌道を堅持するために、一定の軌道修正を行うことを意図したものであり、それは賢明な判断だったと思う。国民に対する背信とか、司法改革の頓挫をもたらすと決めつける社説の論調は、これを理解しないものだ。
宮崎執行部は、法曹の質の維持のためには「2010年に3000人増員、その後さらなる増員」という急激な増大を続ければ法曹の質の低下を招きかねない ことを十分、市民やマスコミに説明しつつ、法曹人口を着実に増大させ国民の要請に応える改革路線を堅持して頑張って欲しい。

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