弁護士のプロフェッショナルシリーズ第一弾 「喜怒哀楽を力にー自称青年弁護士の訟廷日誌」を聞く 豆電球№110
2010年4月8日
弁護士のプロフェッショナルシリーズ第一弾
「喜怒哀楽を力にー自称青年弁護士の訟廷日誌」を聞く
自由法曹団愛知支部(弁護士の団体です)は、若手弁護士を対象にして「プロフェッショナルシリーズ」という研修会を持つことになり(タイトルは、お察しの通りNHK番組のパクリである)、その第一段として、長野県から毛利正道弁護士をお招きし講演をしていただいた。
還暦を迎えようとする毛利弁護士が、「弁護士にとって、法律知識や法廷技術等ではなく(それは最小限の前提)、もっと大切なことことがあるよ」と若手弁護士、司法修習生、法科大学院生に語りかけた。その講演は、若手だけでなく、中堅、ベテラン弁護士にとっても、弁護士の原点というものを考えさせてくれる素晴らしいものであったし、私個人にとっても、我が意を得たりという内容だった。「仕事をする場所は違っていても、同じ志を持ち、地域で頑張っている弁護士たちがいるんだ」と思うと、とても元気が出た。
三回にわけて、同弁護士の講演の骨子を紹介させていただく(講演内容の正確な再現ではなく、文責は全て私にあることを断っておく)。
【広く展開して相手を乗り越える】
大風呂敷を広げることも時に大切なことだ。小さな構えではなく大きく構える。
32年前に弁護士登録した頃、第一次サラ金被害の時代を迎えていた。スマートな大手サラ金ではなく、町場の金融業者から多重債務を負担するサラリーマンが増えていた。自分は、一人で「サラ金被害研究会」というものを立ち上げ、その名刺を持って金融業者のところを回って交渉した。効果があった。当時、消費者金融の問題には目も向けない弁護士が多かった。
「ペンションのオーナーになると儲かりますよ」「お客は確保してあげます」と言って、高額のペンションを建てさせる悪徳商法事件にあたった。建物は欠陥だらけ、客は来ないということで、思い借金負担だけがのしかかってきた。この事件で、24名のオーナーを被告としてローンの支払を求める裁判が東京地裁に起こされた。被告の間で連携してみると、建物の欠陥が偶然ではないこと、セールストークの誇張、騙しが明確になった。一件づつやっていたは解明できない事実が大きく展開することによって浮かび上がる。
自営業者の税金裁判も多数手がけてきた。90年代、自由法曹団によびかけ、税金裁判交流会を開催して、全国の税金訴訟の交流会を開いたら、いろんな知恵が出た。その成果として、自営業者が乱暴な税務調査を受けたときの対策のため、税務職員に読ませる冊子を出版したら、受けた。税務署が来ると業者は恐いものだ。さんな自営業者が、震える手で冊子を読み上げ、税務調査に対抗したと聞く。
6名がいっせいに解雇された労働事件を受任したことがある。職場の同僚に呼びかけ、6名の解雇撤回・地位確認請求だけでなく、16名の労働者の協力を得て、「解雇差止」を会社に請求する訴訟を起こし、記者会見をやった。解雇差止請求訴訟というのは、当時、余り聞いたことがなかった。40名の会社で22名が裁判を起こしたということで提訴後、すぐに社長が事務所に泣きを入れ、解決したいと言ってきた。半年程の裁判の中で和解が成立した。解雇を撤回させ、配転や解雇は労働者の十分な納得のもとに行うという合意も結んだ。
01年 交通事故でむち打ちになつた被害者の依頼を受けた。当時、保険会社は時速15キロ以下ではむち打ちは起きないという態度を取っていた。学問的な装いを取った工学鑑定なるものも保険会社から出た。私は、交通事故訴訟研究会という研究会を立ち上げ、整形外科医等の協力も依頼して、同鑑定を覆して賠償を勝ち取った。その後、むち打ち症の研究が進み、かなり緩やかな速度でもむち打ち症が発症することが明確になり、今ではそんな主張は出ないと思う。
公安警察大泥棒事件。共産党の市会議員、労働運動が強い保育園等に窃盗事件が頻発するという事態が生じた。警察が調べてみたら、公安警察の警察官が泥棒だったことがわかった。思想信条の自由を侵害するものと捉え、長野県警公安警察大泥棒事件として国家賠償請求訴訟を提起し、大々的に記者発表をやった。その結果、公安警察というものの秘密性、反人権の実態が可視化された。
それぞれ事件に取り組む際、「大きく広げる」ということを意図していたというよりは、「その事件をどうやったら勝てるか」ということを真剣に考えた結果の積み重ねの中から掴んだキーワードだ。