ホームレスの住所についての大阪地裁判決 豆電球No.8
2006年2月2日
ホームレスの住所についての大阪地裁判決
大阪地裁が1月27日に言い渡した、「公園のテントで生活しているホームレス(野宿労働者)の住民登録を大阪市が拒んだことは違法である」いう判決 が反響を呼んでいる。
判決の理由は、住民台帳基本法は住民登録は生活の本拠を住所地として登録すべきことを定めているのであるから、ホームレスが公園を生活の本拠としている以上、公園を住所地として住民登録したいという申立を拒絶することはできないというものである。法律的に筋が通った判断であり、見識 ある判断であると思う。
この判決に対しては、様々な反対意見が出されている。ホームレスの公園使用は不法占拠であるから住所地として公的機関が認めるべきではないという反対論が あるが、住民登録はホームレスの公園の占有使用を合法化することを意味するものではないから(両者は別問題である)、住民登録が認められたからといってその公園の占有使用を法的に認めることにはならない。
実質的な反対論としては、公園が生活の本拠ということになれば、ホームレス生活からの離脱を促進させることの障害となり、ホームレスのためにならない、という意見である。この意見には、一理あるような気もする。
私は、一昨年、ある国選事件でホームレスの人の詐欺事件を担当した。ホームレスの甲さんは、10年近くホームレス生活をしている70歳を超えた高齢の男性であったが、生活費に困窮し、通りかかった青年に嘘をいい、タクシー代の名目で何千円かのお金を騙し取ったという事件であった。事実は認めていたので、被告人の情状を訴える弁護活動になったが、調べて驚いたことは、このホームレスは、定年まで真面目に働いており、定年後しばらくは厚生年金を受給していたのである。転居したため現況届の提出を怠り、それをきっかけにして、年金支給を打ち切られ、ホームレスに転落、その後も何度か年金受給を申請したが、「住所 がない」という理由で拒絶されたため、年金受給を断念し、ホームレス生活から這い上がれなかったのである。
私は、社会保険労務士と協力して社会保険事務所と交渉し、その結果、年金支給が再開され、数百万円の年金が一括して支払われた。この老人は、これを元手にアパートを借り、生活を立て直し、執行猶予の判決を受けることになった。
判決言い渡しの時、裁判長は、判決理由の中で「ここまでやってくれた国選弁護人に感謝しなさい」と言ってくれた。
この事件を担当して、ホームレスが、「住所がない、住所が持てない」ことによって、どんなに不利益を被っているか、ということを痛感した。今回の大阪地裁の判決は、ホームレスが住所を持てないことが様々な不利益を及ぼしていることを改めて浮き彫りにした点で、社会的意義を有する判決だったと思う。
ホームレスだから住所がない→国民年金・厚生年金や国民健康保険等の受給が認められない→お金がないのでホームレスから離脱できない、という悪循環を断ち切るために、行政が具体的な手立てを取る必要があると思う。