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事務所だより

コナン君の裁判員制度問答No.5 豆電球No.63

2008年7月18日

コナン君の裁判員制度問答No.5

コナン 暑い、暑い。蒸し風呂のような日が続くがね。毎日、熱帯夜。勘弁してほしいわ。

長谷川 名古屋の夏を知らんのかね。多治見、多治見と言うが、本当は、名古屋の方が暑い。名古屋の観測ポイントは、千種区本山の比較的涼しいところにある。都心の栄で計ったら、2度は上がると思う。

コナン 前回までは、刑事裁判の事実認定とは何かの説明だった。確かに、刑事裁判の事実認定は、特別の法律知識は必要ないこと、健全な社会常識に基づき、経験則と論理によって判断できる事柄であることはわかった。
でも、仮に市民が判断できる事柄であるとしても、多くの刑事裁判に関与し経験を積んだ刑事裁判官の方がいいんじゃないのかい。なんで市民がわざわざ出て行かなくちゃならないんだ。

長谷川 It,s the question。それが問題なんです。裁判員制度が導入されることになった理由は何か。「市民の健全な社会常識を刑事裁判に反映させる」「刑事裁判に対する国民の理解と信頼の確立」といったことが言われているけど、そこを具体的に考えてみよう。

コナン いよいよ、むつかしい話になりそうだな。「豆電球は難しすぎで、ようわからん」という声が出とるらしいがね。大丈夫か。

長谷川 多少、厳密さを犠牲にしても平たく話をするように努力するから、そう言うなよ。
裁判員制度が導入された理由は、要するに、今までの日本の刑事裁判の構造的欠陥があったということ。欧米等、諸外国がやっているから日本もやろう、というような単細胞の議論ではない。
「キャベツくん」という絵本、知ってるかい? それにならって、「裁判員制度になったら、日本の刑事裁判はこうなる!という話をしてみよう。
≪裁判員制度になったら、こうなる≫>
第1・・・「供述調書」という名の警察官の作文が主役の刑事裁判のやり方が改められ、刑事裁判の原則として刑事訴訟法が定めた直接主義・口頭主義が再生される。

コナン まったー! 直接主義、口頭主義、とシュギという言葉が出るだけで、話がわかりにくくなる。

長谷川 刑事訴訟法は、法廷で検察側・弁護側が口頭で主張を たたかわせ、裁判官が物証や関係者の証言を直接、聞いて、検察官の主張すなわち起訴状に記載された犯罪事実の存否を判断するという原則を採用した。これ を、直接主義、口頭主義という。その帰結として、伝聞証拠は原則として証拠から排除される。これも刑事訴訟法の基本原則の一つなんだ。
伝聞証拠というのは、何か。今流行の電子辞書「ウィキペディア」は、次のように言っている。
「伝聞証拠とは、公判廷における供述に代えて書面を証拠とする場合、または、公判廷外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とする場合であって、 原供述の内容の真実性が問題となる証拠を言う(この点につき、伝聞証拠を反対尋問によるテストを経ていない供述証拠とする説もある)。例としては、関係者 の供述を書面に落とした場合にその書面が証拠と認められるかどうか、という形で現れる。また、他の者の供述を内容とする供述とは、例えば、目撃者が犯行状 況を話したのを証言者が聞いた、という場合に、目撃者本人ではなく間接的に聞いた証言者の供述のみで、犯行状況に関する証拠として用いてよいかどうか、と いうことを意味する。
供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述の過程を経て公判廷にあらわれる。そして、この各過程にあって誤りが生じる可能性がある。見間違い、記憶違い、言い 間違い、嘘をついているなどの可能性があるからである。この誤りの可能性は、対立当事者などによる(反対)尋問によってただされ、本人の一通りの供述だけ をそのまま証拠とするのとくらべて、裁判の過程で証拠として取り扱うのに支障のない程度まで縮減されると考えられている」

コナン 伝聞証拠によって事実認定を行うことに問題があることはわかったよ。

長谷川 伝聞証拠の典型的なのが、捜査官が作成する供述調書だ。これには、被害者や目撃者に関するもの、被告人の取り調べに関するものがある。
これまでの刑事裁判は、原則が逆転し、捜査官の作った作文としての供述調書、自白調書等が証拠の王様になってしまい、法廷での審理はその従僕としての役割になっててしまっていた。これが、「調書裁判の弊害」と言われるものだ。
最近、国選事件で窃盗(万引き)の事件を担当したんだが、調書裁判の弊害を痛感したことがあったよ。例えば、その事件の被告人は、アピタという店で2 回、万引きした事件だったが、調書では、「ジャスコのような警備が厳しい店を避け、軽微で手ぬるいアピタを狙った」計画的な犯行になっている。しかし、被 告人は、そんなことは言っていないし、そもそもジャスコの警備が厳しいなんてことすら知らなかった。警察官が、どんどん作文を作り、「こうだな」「こうい うことだろ」と供述を誘導していく。万引きしたことに変わりないと思った被告人は、言うがままに調書を作られ、署名捺印していたよ。
裁判員制度になると、検察と弁護側の主張が対立する論点について、直接、法廷で関係者の証人尋問が行われることになり、被告人の供述についても法廷での被告人質問が重要となる。だいたい、裁判員が膨大な調書を読むことはできない。
(続く)

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