シリア問題について、自由法曹団が声明を発表。
2013年8月30日
自由法曹団が、シリアの問題について、次の声明を発表しました。
シリア国内における化学兵器の使用を強く非難するとともに、大国の軍事介入を絶対に許さない声明
シリア国内における現政権と反体制勢力との武力衝突が続くなか、本年8月21日、首都ダマスカス近郊で、神経ガスと思われる化学兵器が使用され、子どもを含む一般市民が数百人規模で死傷したとの報道がなされている。
現在、国連調査団がシリア国内に入り、化学兵器使用の有無を調査中であるが、イギリス政府は28日、国連安全保障理事会に対し、化学兵器は現政権が使用したとの前提で、シリアに対する軍事行動を可能とする決議案を提案し、アメリカ政府は同日、国連安保理の決議がない場合でも軍事介入を行う旨発表した。フランス政府も同様の姿勢を示している。
細菌兵器や毒ガス兵器などのいわゆる生物・化学兵器は、その使用による人体への影響や残虐性の高さにもかかわらず、高度の技術を持たなくても製造できることから、「貧者の核兵器」と呼ばれている。このような兵器を使用することは、極めて残虐かつ非人道的な行為であって、どのような戦闘状態にあっても決して許されるものではない。それゆえ、今回の化学兵器による攻撃が事実であるとすれば、いずれの陣営による行為であっても、無抵抗の一般市民を巻き添えにし、大量の死傷者を発生させた極めて残忍な非人道的行為として、最大限の非難に値すると言わねばならない。
他方、化学兵器の使用がいかに非人道的行為であったとしても、このような行為を止めさせるという名目のもとに他国が武力をもって介入することは、決して平和秩序の回復につながらず、更なる暴力の連鎖さえ生みかねない。このことは、「大量破壊兵器の破壊」を名目としてアメリカを先頭にイラクへの軍事介入を行い、フセイン政権を転覆させたにもかかわらず、テロと暴力の連鎖が一向に止む気配のないイラクの現状をみれば明らかである。
さらに、国連憲章は第2条4項で加盟国の武力行使を原則として禁止し、第33条で加盟国に紛争の平和的解決を義務づけている。国連憲章が例外的に許容する武力行使は自衛権行使(51条)と安全保障理事会の決定による軍事的措置(42条)の場合に限られている。8月28日の安全保障理事会の常任理事国の会議ではアメリカ、イギリス、フランスと中国、ロシアとの間で意見の一致をみなかったが、それにもかかわらず、アメリカなどは安保理の決議がなくても単独でシリアに対して武力行使を行うと言明している。これに対し、国連の潘基文事務総長は「国連憲章を忠実に守ろう」と前記3国の動きを理性的に牽制するところとなっている。
仮に現実の武力行使が行われたとなれば、その行為は明白な国連憲章違反となる。大国の軍事介入は、たとえ人道的介入を名目にしたとしても、国際法違反であり、国際的な平和秩序に対する破壊行為以外のなにものでもない。
そうしたなかで、武力行使を言明し、容認する姿勢を示す各国においても、世論の大多数は軍事介入に反対している。29日にはイギリス議会下院において、政府が提出した軍事介入の議案が反対多数で否決された。
いま国際社会が求めているのは、武力を押さえ込むために武力に訴えることではない。国連憲章に基礎をおいて取り得べき平和的手段を全て実行に移すことである。
自由法曹団は、シリア国内における化学兵器の使用を徹底して非難するとともに、化学兵器使用を中止させることを名目に、アメリカをはじめとする各国が、国連憲章にも反してシリアに軍事介入を行おうとしていることを絶対に許さず、さらに、平和憲法を有するわが国が、今こそ率先して、武力衝突の中止と軍事介入の禁止を国際世論に強く訴えることを求めるものである。
2013年8月30日
自 由 法 曹 団
団 長 篠 原 義 仁