高齢者・障がい者をサポートする制度(3)任意後見契約vol.2
2013年3月27日
前回、任意後見契約について制度のご説明をしました。
↓任意後見契約vol.1 任意後見契約について制度の説明はコチラから↓
http://www.kita-houritsu.com/?p=4841
今回は任意後見人の仕事内容や課題についてです。
1 任意後見人の職務
(1)任意後見人の職務でないこと
任意後見契約は、委任契約の一種であることから、法律行為についてしか委任することはできません。つまり、食事の介助、掃除、オムツの取り替えといったような事実行為は、任意後見人の職務ではありません。これは、法定後見制度と同じです。
後見人がついても、介護を受ける必要があれば、親族やヘルパーさんなどの力が必要なのです。
もし、後見人となる人に対して介護を委託したいときには、契約書の中に、その旨書き入れておく必要があります。
また、任意後見契約は、本人の死亡により終了します。そのため、本人の死亡後の事務、例えば葬儀などについて委託したいときは、契約書に書き入れる必要があります。
(2)契約の取消権
任意後見制度は、法定後見制度の場合と異なり、後見人による契約の取消権は定められていません。立法時にも任意後見人には取消権はないとされていました。
しかし、詐欺や強迫による財産被害から本人を保護する必要があるのは、任意後見制度の場合でも同じです。
そのため、民法120条第2項により、詐欺又は強迫によってした契約を取り消すことができるとされている「代理人」の中に、任意後見人を含めて解釈することができないか、という議論がなされています。
2 今後に残された課題
(1)任意後見制度の利用実態
任意後見契約の登記がされた件数は、制度が開始した平成12年から昨年までの約12年間で、約5万件です。
法定後見制度と比べると、後見開始の審判の申立件数だけでも、平成23年の1年間で2万5905件だったのに対し、任意後見監督人の選任申立は、平成23年の1年間で645件でした。
制度の存在自体があまり知られていないこと、契約でどのような内容を定めればよいのか自分で決めることに不安も大きいことなどから、任意後見制度の利用はまだまだ少ないといえます。
(2)濫用防止の仕組み
制度を濫用させない仕組み作りも必要です。
例えば、判断能力が十分なうちから財産管理契約(普通の委任契約)を結び、同時に将来に備えて任意後見契約を結ぶというケースがあります。こうしたケースで、本人の判断能力が低下して、委任者本人のチェックが働かなくなったにもかかわらず、任意後見人受任者が任意後見監督人選任申立てをしないまま、監督を受けずに任意の委任契約を続けてしまう、という事案があります。
こういうケースでは、受任者が誰の監督も受けないことをいいことに財産管理権を濫用し、本人に被害を与えてしまうおそれがあります。そのため、任意後見監督人が選任される前に任意の財産管理契約を結ぶときには、重要な財産の処分には本人の同意を必要とするべき、などの提案がされています。
(3)まとめ
禁治産・準禁治産制度のもとでは、高齢者などは財産管理の「対象」とされがちでした。
判断能力が低下したからといって自分らしい生活を阻害されてはいけない、という趣旨から始まった成年後見制度。その中でも、任意後見制度は、自己決定権の尊重を全面に打ち出した画期的な制度だといえます。
今後、よりよい制度にしていくために、注目していきたいですね。
2013 /3/6
弁護士 矢崎暁子
(ホウネットメールマガジンより転載)