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知って得する法律情報

電気窃盗の話

2021年8月18日

 先日、久々に電気窃盗のニュースを見ました。コンビニの店の前のコンセントに炊飯器等を接続して、ご飯を炊いていたという事件です。あまりにも大胆な手口には呆れてしまいましたが。電気窃盗の事件は、法律家にとって格好のネタになるんです。

<電気は物か、論争>
 というのも、電気を勝手に使うことは窃盗罪に当たるか、というのが旧刑法のもと大論争になり、大審院(戦前の最高裁に当たるもの)で決着をつけるまでになった歴史があるからです。
 旧刑法の窃盗罪の条文は「財物」を盗むこと、とされていました(今もそうですが)。具体的な形のある「有体物」を想定していたわけです。ところが電気には形がなく、「電気は物にあらず」、したがって、電気を盗んでも窃盗罪には当たらない、という理屈が出てきました。
 戦前の裁判では、電気を盗んだ刑事事件で、当時の東京帝国大学の物理学教授まで証人に呼んで、電気は物か否かが真剣に議論され、控訴審では電気は物に当たらず、という理由で無罪になりました。
 さらに事件は大審院に上がり、結局、可動性と管理可能性があるとして、窃盗罪の成立を認めました(1903年判決)。この裁判の過程では、刑法学者の間でも窃盗罪の「財物」概念について、有体物説と管理可能性説が主張されて論争となりました。
 こうした経過を踏まえて、刑法改正の際には「窃盗や強盗の罪については、電気は、物とみなす」という規定が作られて、立法的な解決に至りました。
 法律を学んだ者は、この経過を知っているので、電気窃盗のニュースを目にするとこの論争を思い出し、刑法を勉強し始めた頃を懐かしむのです。

<電気窃盗の実例>
 今回のような大胆な事件はあまり見ませんが、電気窃盗の事件はたまに目にします。アパートの隣室のコンセントから勝手に電気を引いたとか、普段人のいない店舗(コインランドリーなど)でパソコンを充電したとかです。
 最近は喫茶店などのテーブルの横や目の前にコンセントが設置されており、スマホ充電用に自由に使える場所も増えてきましたが、そうではなく、床近くに隠れたように設置されたコンセントに勝手にスマホをつないで充電すると、電気窃盗罪に問われる可能性がありますからご注意ください。

弁護士 伊藤勤也(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)

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