老後の生活資金に「2000万円」!?
2019年7月23日
2019年6月3日発表の金融庁がまとめた報告書が話題になっています。
夫65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦世帯の場合、家計の平均収支は、収入は年金のみで約20万円、支出は26万円。差引すると毎月約5万円、年にして約66万円の赤字です。この生活が30年続く場合、夫婦で約2000万円の貯蓄が必要となるとの報告です。ちなみに、2000万円というはあくまで日常の生活費。病気や介護などによる特別な出費を加味するとさらに資金の貯蓄が必要ということになります。
報告書が表に出るやいなや、「2000万円も準備しておくことはできない」、「公的年金制度はもう破たんしているのか」と世間では不安の声や批判が相次ぎました。政府は報告書のあまりの衝撃に、報告書の内容が杜撰、表現が不適切だと報告書を批判し、正式な報告書としては受け取らないと対応しています。
現在、私も代理人となって年金裁判を闘っています。裁判の中では、現在の年金制度のもとでは、年金だけでは老後の生活費を賄えず、貯金を切り崩さなければならない赤字状態であることを明らかにしました。また、貯蓄が全くない世帯の多さ、そもそも年金を満額もらえない方や無年金の方の多さも指摘しました。今回の報告書は現在の公的年金制度が老後の生活を支えるには不十分な内容であることを認める資料といえます。
菅官房長官はこの騒動に関し、「公的年金は持続可能な制度を構築しており、年金こそが老後の生活設計の柱だ」との認識を示したようですが、年金裁判で国は持続可能性を維持するために給付する年金の抑制が必要だと述べています。つまり、国はますます年金を削ると言っているのであり、その結果、毎月の赤字はさらに拡大し、老後のために必要な貯蓄もさらに増えるわけです。到底、年金が老後の生活設計の柱だとは言えたものではなく、明らかに表面的な弁明といえるでしょう。
弁護士 新山 直行 (名古屋北法律事務所)
(「年金者しんぶん」へ寄稿した原稿を転載しています)