物価上昇と年金
2023年2月1日
年金制度の仕組みはご存じですか?(以下の説明は既に年金を受け取っている方の制度に絞っています)。
昔の年金制度は、「物価スライド」といって、物価変動率の上下に応じて、毎年の年金額が改定されていました。具体的な年金額が変わっても、年金の実質的な価値は変わらなかったわけです。
その後、様々な制度変更がなされ、主要なものでは次の変更がありました。
①賃金変動率という新しい指標が加えられました。
例えば、物価上昇・賃金下落の場合、物価スライドだけであれば年金額は物価に合わせて増額改定だったものの、改定なしの据え置きとなるように変わりました。
②マクロ経済スライドといって、現役の被保険者の減少や平均余命の伸びをもとに算出した調整率により減額調整する仕組みができました。なお、マクロ経済スライドによってマイナス改定になることはなく、減額調整が大きくとも改定なしで踏みとどまります。従前までは、引けなかった調整分はその都度消えて、繰越はされませんでした。
③平成28年の法改正により、これらがさらに変更されました。
例えば、物価上昇・賃金下落の場合は据え置きだったものを、令和3年度からは賃金下落に合わせて減額改定することになりました。また、マクロ経済スライドで引けなかった分は将来に持ち越して、引けるときに引くことになりました(キャリーオーバー)。
このように、年金制度は基本的には給付が抑制されるような変更が続いています。
昨今、コロナからの経済活動回復による需要拡大やロシアによるウクライナ侵攻の影響などから日々の物価上昇が目まぐるしくなっています。
昔の年金制度であれば物価上昇に合わせて年金額も増額改定されていたはずですが、今は賃金変動率にも依拠されるので、賃金に合わせて減額もありえます。賃金上昇があった場合でも、現在、マクロ経済スライドのキャリーオーバーが続いており、繰越分がまとめて減額調整されてしまう見込です。
こうした見通しからすると、最近の物価上昇は、年金が唯一の収入源であることが多い高齢者にとっては特に影響があります。財源の問題はどこにもあるとはいえ、目の前の生活に関わる社会保障は削減一方で、軍事費は拡大ばかりが見られます。社会保障は現役世代の今や将来にも関わる問題なので気にかけていく必要があります。
弁護士 新山直行(名古屋北法律事務所)
(「新婦人北支部・機関誌」へ寄稿した原稿を転機しています)