気持ちはわかる!〜身近な判例紹介〜第3回
2012年3月23日
気持ちはわかる!〜身近な判例紹介〜
第3回 指揮者が違ってがっかりのオペラ観劇者さん
どこまで需要があるのかわからないこのシリーズですが、今回もまた一つの判例を紹介したいと思います。
【あらすじ】
Xさんは、ローマ歌劇場によるオペラ日本公演のチケットを4万8000円で購入しました。なんとその公演は、ジェルメッティが指揮をするという触れ込みだったのです!
・・・誰?
調べたら、かなり有名なイタリアの指揮者のようです。ともかく、Xさんはジェルメッティが指揮をする公演を楽しみにしていました。
ところが、公演当日、登場したのはよく知らない格下の指揮者だったのです。ジェルメッティ指揮のオーケストラを聴きたかったXさんは、激しくがっかりです。
Xさんは、公演を主催した朝日新聞社などを相手に、チケット代の返還と慰謝料を請求する裁判を起こしました。
【裁判の結果】
残念ながら、Xさんは一審でも二審でも負けてしまいました。
裁判所がいうには、「確かにジェルメッティが指揮するという触れ込みだった以上、彼が指揮をしなければ契約違反だ。でも、『やむを得ない事情』があって別の人が指揮をすることになるのは仕方がない」ということです。
では今回の「やむを得ない事情」とは何でしょう?
本件では、ある会社(B社)が公演主催者から依頼を受けてローマ歌劇場との交渉を担当していました。B社は、指揮者をジェルメッティとする約束を、ローマ歌劇場からきちんと取り付けていたのですが、後に、歌劇場から指揮者を変更すると一方的に言われました。直ちにA社はそれは困ると申し入れましたが、歌劇場は態度をはっきりさせず、結局、公演の前日になって格下の指揮者で決まったと伝えてきたのです。
つまり、B社(公演主催者側)はできる限りの努力をしたのだから、責めるのは酷だ、という判断なのでしょう。この判断をどう思うかは、人それぞれかもしれませんね。
【余談】
どうやらジェルメッティは、公演の前日にシドニーで別の公演を指揮していたため、日本に来られなかったようです。要するに、予定の調整ミスですね。体調不良とかならともかく、確かにこれは釈然としません。
代わりに来た「格下の指揮者」の名前は調べてもわかりませんでしたが、この人が将来ジェルメッティを超える一流の指揮者になってくれれば、Xさんの悔しさも少しは晴れるのではないでしょうか。
弁護士 鈴木哲郎
今回の裁判の詳細は、以下のページに掲載されています。
http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/201110_1.html